なぜ日本だけが長い不況のトンネルをいつまでも脱することができないのか。大前研一氏は、その根本的・構造的問題を考えなければ安倍政権が経済を真に復活させることはできないと指摘する。
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日本経済の最大の問題点は、未だに〝閉鎖経済〟であるということで、その象徴は金融の仕組みである。1500兆円とも言われる個人金融資産が銀行、郵便貯金(現・ゆうちょ銀行)、生命保険に滞留して市場に出てこない。
銀行は「経済の心臓」であり、お金という経済の血液を循環させる機能を担っているはずだが、日本の銀行の場合は循環機能を放棄してお金を滞留させている。国民から預かった資金を大量に日銀へ預け、さらに日本国債を買いまくり、それらを「運用」と称している。国債を買い続けるという意味では、国家の”生命維持装置”になり下がっている。これでは投資を活性化することなどできない。市場にお金が出てこなければ、景気も上向くことがない。
小泉政権の時は「大蔵省(財務省)vs郵政省(総務省)」の構図の中で、大蔵族の小泉首相が、利権のためとはいえ曲がりなりにも郵政3事業を民営化(しようと)した。
しかし、今は財務省も「ゆうちょから資金が流出すれば、国債の買い手がいなくなる」と考えているようで、日本郵政の社長には、旧大蔵事務次官の斎藤次郎氏に続き、同じく大蔵OBの坂篤郎氏を送り込み、ゆうちょを守ろうとしている。つまり財務省の考え方は180度変わってしまい、小泉改革は跡形もなくなって閉鎖的な過去(日本郵政の再国営化)に戻っている。
農業などの利権団体が牛耳っている領域も依然として閉鎖的だ。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)に反対しているのはそうした勢力だが、日本経済全体から見ると、利権団体が牛耳っている領域はコメやコンニャクなど非常に小さくなっている。
それに、牛肉、オレンジ、サクランボなど過去に日米貿易戦争で標的となったケースを振り返れば、市場を開放しても結果的に日本の農業や畜産業は脅かされていない。
こうして見てくると、日本はこれまで20年以上、規制緩和が進まず閉鎖経済から脱却できないために低迷が続いてきたことがわかる。安倍首相が小手先の政策を繰り出しても、この根本的・構造的問題を解決しなければ、経済の真の復活はありえないだろう。
※SAPIO2013年3月号