クルッと回って自然にトガる。発売後5年で2000万本のメガヒットとなった三菱鉛筆のクルトガ。作家の山下柚実氏が、中高生に爆発的な人気を誇り、海を渡った先でも人気を集めるシャープペンシルの開発ストーリーに迫った。
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どんな味がするのだろうか? 食べ物ではない。「書き味」のことだ。 三菱鉛筆の『クルトガ』は、2008年の発売から累計2000万本も売れた革命的シャープペンシル。そう聞いて、いったいどんな書き味なのかと興味津々。
でも、受験勉強以来、シャープペンにはとんとごぶさたしている私。今日はちょっと高校生気分に戻って、使ってみようか。
クルトガを手に持って4~5行、文を書いてみる。すらすらと滑らかなタッチだ。さらに書く。書いても書いても……あれ不思議。太くなったり細くなったりのムラがない。書き始めからタッチがまったく変わらないのだ。紙にひっかかって芯がポキッという不快感もない。そう、芯が折れるのがイヤで、私はシャープペンが好きになれなかったんだっけ。
でも、クルトガ体験で一番驚いたのは、書き味そのものではなかった。あまりにも書くストレスが少ないために、ふと、「シャープペンで書いている」という意識が消え、ただ書く「内容」ばかりに集中していたことだ。
そんな画期的な筆記感覚を与えてくれる「クルトガ」の中味とは、どんな構造でできているのだろうか。
「常に芯が尖った状態を保つために、軸の先端には小さなギアが3つ入っています」と三菱鉛筆横浜研究開発センター・中山協氏(46)が説明する。
「字を書く時の筆圧によってギアが上下し、芯を少しずつ回転させていく構造です。一画書くたびに9度ずつ芯が回り、減った部分が移動していくわけです」
クルりと回ってトガる。だから『クルトガ』。筆圧を使ってギアの上下運動を作り出し、その力を回転運動に転換するありそうでなかったメカだ。通常の2倍もの部品を駆使しモノ作りニッポンのお家芸とも言える細やかな工夫を詰め込んだ筆記具。世に出て5年が経つのに、人気も売り上げも衰えていない。
「11月に、専用の替芯を発売したところです。芯の素材となる黒鉛は焼き固めて作るため、通常だと外側が固くなるのですが、この芯は逆。内側が固くて外側が柔らかい構造で、より尖りやすい芯を実現しました」
1つのブランドに特化した芯を発売するのは世界で初めて、と中山さんは語る。
「細かい字できれいなノートをとりたい」という、日本人特有のこだわりと美学に応えた筆記具は、海を渡った。アメリカでも人気を博しているとか。
「アルファベットの文化圏では、日本人と違って強い筆圧で勢いよく字を書く人が多い。それでも芯が折れにくくて、きれいな線が持続すると高く評価されています」
※SAPIO2013年3月号