2月に明らかなった自衛隊への中国軍艦による2件のFC(火器管制)レーダー照射が、日中関係さらには国際社会を揺るがす大問題となっている。ひとつは今年1月19日に海自のヘリコプター「SH60」に対して、もうひとつは1月30日に海自の護衛艦「ゆうだち」に対して照射された件である。
しかしFCレーダー照射事件はこれが初めてではなかった。現在まで野田佳彦・前首相をはじめとする当時の民主党政権関係者も現政権も沈黙しているが、現実には1年近く前から、中国軍によるレーダー照射が繰り返されてきたのだ。
本誌は、昨年4月に海上自衛隊のP-3C哨戒機が中国艦艇から照射を受けたことを報じたが、それだけでなく、同年8月にも同様のレーダー照射は起こっていた。
2012年8月20日、自民党の山谷えり子参議院議員らが尖閣周辺の戦没者を慰霊する「尖閣慰霊祭」に参列した。この時、山谷議員らは尖閣への上陸許可を国に求めたが、当時の野田政権は拒否。上陸はかなわず、慰霊祭は地元議員や地元漁民らとともに尖閣沖の洋上で行なわれた。
議員らの上陸を拒否したことは、日本政府の中国に対する過剰ともいえる配慮だ。にもかかわらず、中国軍は敏感に反応した。
慰霊祭の直後、東シナ海で警戒活動中の海自の護衛艦がFCレーダーの照射を受けたのである。防衛省幹部がいう。
「レーダー照射を受けた護衛艦は、ECM(エレクトロニック・カウンター・メジャー)と呼ばれるレーダー妨害装置を発動させたと報告を受けている。これはレーダー照射を受けたP-3Cが行なったチャフ(レーダー攪乱用の金属片)の放出とは比較にならないほど緊急的な措置だ。いかに危険が迫っていたかを物語っている」
FCレーダーの射程は水上の船なら20キロメートル前後、上空なら60キロメートルは届くといわれている。発射されたミサイルや砲弾はレーダーのデータをもとに相手の動きを予測して飛ぶので、標的との距離にもよるが、命中確率は非常に高い。照射された側は、発射ボタンを押されれば一巻の終わりだ。
いつ戦闘状態になってもおかしくない事態だったのである。さらに詳細までは把握できていないものの、「2012年9月に中国漁船が大挙して尖閣に押し寄せようとした際にも、警戒にあたっていた護衛艦がレーダー照射を受けた」(別の防衛省幹部)との情報もある。
※週刊ポスト2013年3月1日号