473兆円──これは日本の名目GDP(2011年度)である。この数字は約20年間、ほとんど変わっていない。そうしている間に、他の先進国は多くがGDPを1.5倍~2倍以上に増やしている。なぜ日本だけが長い不況のトンネルをいつまでも脱することができないのか。大前研一氏は、その根本的・構造的問題を考えなければ安倍政権が経済を真に復活させることはできないと指摘する。
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大胆な金融緩和、機動的な財政出動、成長戦略を“3本の矢”とする安倍晋三首相の経済政策をメディアは「アベノミクス」と大々的に取り上げ、年末から年始にかけて株価は大きく上昇し、為替相場でも円安が進んだ。
安倍首相は、年明けに閣議決定した事業費総額20兆円の緊急経済対策で「実質GDP(国内総生産)を2%押し上げ、約60万人分の雇用を創出する」と意気込んでいる。しかし、それは「捕らぬ狸の皮算用」で終わる可能性が高い。
そもそも安倍首相は「民主党政権がデフレ不況を長期化させた」と批判していたが、現実が見えていない。
バブルが崩壊した1990年以降の日本は世界の先進国の中で唯一、GDPデフレーターがほぼマイナスで推移。1990年の値を100とすると、日本だけが100を割り込んでいる。名目GDPの事実上ゼロ成長が続いているのも先進国では日本だけだ。
つまり、日本は22年間にわたってデフレ不況に陥ってほとんど経済成長していないわけだが、そのうち民主党政権は3年3か月にすぎず、あとの19年近くのうち細川、羽田政権を除く80%の期間は第1次安倍内閣を含む自民党政権だったのである。デフレを長期化させた責任の大半が自民党政権にあることは明白だ。
この紛れもない事実を、マスコミと国民は思い出さねばならない。株価が上がって円安になったからといって、さっそくアベノミクスが効き始めたと騒ぐのは本質から外れている。
今はまだ、3本の矢のうちの2本、自民党お得意の金融と財政をやるとアナウンスして予算案を決めただけで、実体経済は何も変わっていないのである。ましてや3本目の矢である成長戦略は世界中の先進国が模索しているが、どこも見いだせていない難題である。
根本的な問題は、日本が「高齢先進国」の先行指標になってしまったことである。アメリカやヨーロッパ諸国も長期的に見れば同様の問題を抱えてはいるが、アメリカの場合は海外からの移民を年間67万5000人の枠を設けて受け入れているため人口が高齢化しにくく、ヨーロッパの場合もEU27か国の巨大な共同体が存在するため、閉鎖的な日本のように急に問題が顕在化することはない。
なぜ日本だけがこのように特殊な状況になってしまったのか、きちんと原因を分析・解明して謙虚に従来の政策を反省し、構造的な問題をクリアしなければ、本当の意味で経済は再生しないだろう。不況の原因があたかも日本銀行にあるかのごとき振る舞いは、”魔女狩り”である。
※SAPIO2013年3月号