かつての“庶民の味”も、いまや“高嶺の花”になってしまった。2月1日、天然のニホンウナギが環境省から「絶滅危惧種」に指定された。背景にあるのが稚魚であるシラスウナギの不漁である。 シラスウナギ漁は毎年12月~翌年4月までの約5か月間のみ。しかし、
「今年度は、昨年12月と今年1月でわずか32キロの漁獲量しかありません。昨年同期の120キロを大きく下回っています。2008年は1355キロでしたから、とんでもなく悪い数字です」(鹿児島県水産振興課)
鹿児島県は日本で最も養殖ウナギの出荷量が多い。しかしその鹿児島ですら昨年は、養殖のために必要な量の約6割程度しかシラスウナギを確保できなかった。「このままだと今年はさらに少なくなる」(同前)と頭を抱えている。
当然、数が減れば価格は高騰する。昨年の取引額は1キロあたり200万円。これは10年前のおよそ10倍の値段だ。
シラスウナギは、もともと“白いダイヤ”と呼ばれ高値で取引されてきた。それゆえ密漁が後を絶たなかったが、近年の不漁はその密漁者にも影響を与えた。
「昨年度の逮捕件数は2件で、大漁だった2008年の14件などに比べると少ない。あまりにも獲れないので、密漁者すらいなくなってしまった」(高知県海上保安部)
水産庁もこの緊急事態に動き出した。養殖が盛んな鹿児島、宮崎、愛知、静岡の4県で、「産卵のために海に出ていく親ウナギの漁」に対して、これまでは自粛を呼び掛ける程度だったが、規制や禁止といった厳しい処置をすることを検討し始めたのだ。
こういった状況に、都内ウナギ料理専門店の店主の表情もさえない。
「現状でもうな重(2000円)の原価は5割を超えている。昨年は1割の値上げで乗り切ったが、今年はもっと値上げしないとやっていけない……」
今年は本当にウナギが食べられないかもしれない。
※週刊ポスト2013年3月1日号