中国経済は今まさに、新たなフェーズに移行しようとしている。ジャーナリスト・富坂聰氏がレポートする。
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春節前に書いた原稿では、未払い賃金を残したまま夜逃げをする企業がこの時期に続出する問題について紹介した。これが“入り口”での労働者の受難だ。
だが、問題は故郷で楽しい正月を過ごして帰った時にも彼らを襲う。“出口”の受難である。毎年、ここでも夜逃げ事件が起き、自分たちが戻る工場がなくなっていたという出稼ぎ労働者が大騒ぎするといった事件が各地で見られるのだ。
ところが、今年は少し様子が違っていた。というよりも「ここ数年」と言った方が正確かもしれない。夜逃げ事件は起こるものの、全体として人手不足が続いているため、労働者の取り合いという現象も年々顕著になってきているのだ。
今年の春節明けも、この二つの異なる労働問題が巷で話題をさらった。
各都市の主要駅では賃金が大書された段ボール紙を手に雇用者たちが押し合いへし合いする姿が目立ったが、注目すべきはその金額である。これまで、中国の労働者の賃金といえば月額3万円程度というのが通り相場となっていた。
ところが今年、駅の集まった経営側が提示しているもののなかには「四〇〇〇元~六〇〇〇元」という文字が目立っていたのである。つまり、最高で月額10万円弱にもなる数字を掲げていた。
いま日本の新聞には「中国での生産を削減する」といった文字が躍っているが、それもむべなるかな。いつのまにか中国人労働者の賃金はこれほど高騰しているのである。
一方、相変わらずの状況に見舞われたのがフォックスコンである。シャープの買収問題で話題となった台湾企業・鴻海の系列企業だが、工場前には春節帰りの出稼ぎ労働者たちが大挙して詰めかけて大騒ぎとなり、メディアが一斉に駆けつける事態となった。
雇用担当の窓口に殺到した労働者たちは自分たちの職が確保されるのか戦々恐々としていた。というのもフォックスコンは労働者をロボットに変えてゆくことを表明し、現在40万人いる労働者を15万人にまで削減し、工場から研究機関への脱皮を目指しているといわれるからだ。
鴻海の競争力の源泉はなんといっても安く使える中国の労働者だっただけに、今後の戦いの苦戦を予測させる。
少し様子は違っているが、いずれも中国が世界の工場としての限界を迎えたことを象徴する事件である。