ライフ

モンスター患者に殴られた医師10人に1人 会話不足も一因か

 医師の10人に1人が患者から暴力を振るわれた経験がある――との衝撃的な調査結果が出た。

 医療従事者向けの情報サービスサイトを運営するケアネットが会員医師1000人に行った意識調査によると、自己中心的で理不尽な要求を繰り返す悪質な患者、いわゆる「モンスターペイシェント」に悩まされたことがあると回答した一般病院の医師が70.7%もいたそうだ。

 その内容は、医療スタッフに対するクレーム(60.5%)から、「訴える」「刺す」などといった脅迫(27.6%)、暴力(16.2%)、土下座ほか度を越した謝罪の要求(11.3%)まで。およそ医療現場とは思えぬトラブルが頻発していることが分かる。

 患者の健康を守るはずの医師が、患者によって身の危険にまで晒されている現状。同調査に寄せた医師の匿名コメントからは、悲痛な叫びが伝わってくる。

■俺の言うとおりの薬だけ出せと強要する(60代内科)
■循環器内科であるにもかかわらず局所を出して「腫れているので触ってくれ」と何度も強要する(40代循環器科)
■患者の自分本位な要求に応じなかったら、激昻して殴られたことがある(40代精神・神経科)
■危険が予測される場合には、眼鏡やポケットの中身などを外すようにしている(30代精神・神経科)
■逃げ場のない個室で診察しているときに、監禁されたことあり(40代内科)

 患者は精神的にも不安定なのは当然だが、監禁や暴行まで発展すれば、医師にとっては明らかな業務妨害となるばかりか、犯罪行為に該当する。そのため、暴力事案が発生すると館内放送でスタッフが集まるような仕組みをつくったり、ボタンひとつで警察に通報できる非常装置を設置したりするなど、防衛策をとる病院も増えた。

 だが、モンスターペイシェントの増加は、医療システムそのものが招いた結果だと話す医師もいる。医療問題に詳しい作家で医学博士の米山公啓氏が話す。

「いまの病院は電子カルテ化が進み、医師はパソコンのモニターを眺めながら診察して患者の顔色さえ見なくなりました。あの光景だけ見れば、患者が怒るのも無理はありません。経営効率を上げるためにコンピューターを導入したのに、結局は患者サービスにつながっていないのです」

 電子カルテ化により、レントゲンや血液検査の結果が診察当日に素早く出るなど、患者にとっては便利になった反面、医師と患者の会話が減っていく。「トラブルの7割はコミュニケーション不足による患者の誤解から起きる」(都内の大学病院医師)というのも頷ける。

 新渡戸文化短期大学学長で医学博士の中原英臣氏は、さらに厳しい指摘をする。

「患者さんが納得するまで平易な言葉で診断をくだし、十分なコミュニケーションが取れている医師は、怒鳴られたり殴られたりすることも少ないと思います。それでもモンスターペイシェントやドクターハラスメント(医師による患者への嫌がらせ)の問題が収まらないのなら、診察室を可視化したり診察内容を録音したりするしか手はありません」

 現行の医師法では、正当な事由がない限りどんな患者でも診察・治療の求めを拒めないことになっている。そのため、医療機関としてはトラブル対策やリスク対応を定めておかなければ、現場の混乱は避けられない。

 前出の米山氏は、防衛一辺倒の医療サイドに同情的な見解も示す。

「いまは小さな医療ミスでもすぐに訴えられて、医者の刑事責任が問われる時代。医者の裁量権は法律では通用せず、訴えた者勝ちみたいな風潮になっています。でも、そうやって医療現場が弱体化すれば、無難な処置しか行われなくなり、最終的には患者のメリットがなくなることを、もっと考えるべきです」

 医師と患者。立場は違えど対等な信頼関係のうえに成り立っていることを、改めて双方が認識する必要があるだろう。

トピックス

自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《中山美穂さん死後4カ月》辻仁成が元妻の誕生日に投稿していた「38文字」の想い…最後の“ワイルド恋人”が今も背負う「彼女の名前」
NEWSポストセブン
工藤遥加(左)の初優勝を支えた父・公康氏(時事通信フォト)
女子ゴルフ・工藤遥加、15年目の初優勝を支えた父子鷹 「勝ち方を教えてほしい」と父・工藤公康に頭を下げて、指導を受けたことも
週刊ポスト
山口組分裂抗争が終結に向けて大きく動いた。写真は「山口組新報」最新号に掲載された司忍組長
「うっすら笑みを浮かべる司忍組長」山口組分裂抗争“終結宣言”の前に…六代目山口組が機関紙「創立110周年」をお祝いで大幅リニューアル「歴代組長をカラー写真に」「金ピカ装丁」の“狙い”
NEWSポストセブン
「衆参W(ダブル)選挙」後の政局を予測(石破茂・首相/時事通信フォト)
【政界再編シミュレーション】今夏衆参ダブル選挙なら「自公参院過半数割れ、衆院は190~200議席」 石破首相は退陣で、自民は「連立相手を選ぶための総裁選」へ
週刊ポスト
中居正広氏と報告書に記載のあったホテルの「間取り」
中居正広氏と「タレントU」が女性アナらと4人で過ごした“38万円スイートルーム”は「男女2人きりになりやすいチョイス」
NEWSポストセブン
Tarou「中学校行かない宣言」に関する親の思いとは(本人Xより)
《小学生ゲーム実況YouTuberの「中学校通わない宣言」》両親が明かす“子育ての方針”「配信やゲームで得られる失敗経験が重要」稼いだお金は「個人会社で運営」
NEWSポストセブン
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波も(マツコ・デラックス/時事通信フォト)
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波、バカリズム脚本ドラマ『ホットスポット』配信&DVDへの影響はあるのか 日本テレビは「様々なご意見を頂戴しています」と回答
週刊ポスト
大谷翔平が新型バットを握る日はあるのか(Getty Images)
「MLBを破壊する」新型“魚雷バット”で最も恩恵を受けるのは中距離バッター 大谷翔平は“超長尺バット”で独自路線を貫くかどうかの分かれ道
週刊ポスト
約6年ぶりに開催された宮中晩餐会に参加された愛子さま(時事通信)
《ティアラ着用せず》愛子さま、初めての宮中晩餐会を海外一部メディアが「物足りない初舞台」と指摘した理由
NEWSポストセブン
「フォートナイト」世界大会出場を目指すYouTuber・Tarou(本人Xより)
小学生ゲーム実況YouTuberの「中学校通わない宣言」に批判の声も…筑駒→東大出身の父親が考える「息子の将来設計」
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《妊娠中の真美子さんがスイートルーム室内で観戦》大谷翔平、特別な日に「奇跡のサヨナラHR」で感情爆発 妻のために用意していた「特別契約」の内容
NEWSポストセブン
沖縄・旭琉會の挨拶を受けた司忍組長
《雨に濡れた司忍組長》極秘外交に臨む六代目山口組 沖縄・旭琉會との会談で見せていた笑顔 分裂抗争は“風雲急を告げる”事態に
NEWSポストセブン