長引く不況下で多くの企業ではこの数年で退職金水準を大きく引き下げる〈退職金クラッシュ〉が起きている。人事院の調査によると、民間サラリーマンの退職金は2005年からの5年間に平均433万円も減少した。
雇用延長制度を理由に、賃下げと退職金・企業年金のカットに拍車がかかればサラリーマンの老後資金はダブルパンチを受ける。
どんな事態が進んでいるかをNTTグループのケースで見ていこう。同グループは現在、50歳の時点で子会社に移籍し、給料大幅ダウンを受け入れて65歳まで雇用延長するか、本社に残って60歳で定年退職するかの選択制を採っている。
この10月からは60歳以降の再雇用時の給料を引き上げるかわりに、30歳代から賃金を抑制する「フラット型」の新たな賃金体系を導入する。会社全体では働き盛りの現役社員の給与水準を下げて高齢社員の人件費をまかない、社員個々は雇用延長で長く働いても生涯賃金は変わらなくする仕組みである。
退職金についても雇用延長をにらんで2003年から大幅な見直しを行なってきた。NTTグループの組合「通信産業労働組合」の武田清春氏が語る。
「以前の制度は基本給と勤続年数で退職金の金額が決まっていたが、成果主義の積み上げ方式に変わった。標準的なC評価だと定年退職でも600万~700万円の大幅ダウンになりました」
5年前に60歳で定年退職したAさんの場合、旧制度の計算方式が適用されたため、退職金は約2550万円だった。
しかし、50歳で子会社に移籍して65歳まで働く道を選んだ後輩のBさんは、新制度が適用されるため、50歳までの退職金と子会社から支払われる移籍後60歳までの退職金を合わせて約1950万円だ。その後、65歳までは契約社員のため退職金は出ない。
「旧制度の計算なら50歳で退職しても2000万円以上もらえたのに、今は65歳まで働いても退職金総額はそれより低い。旧制度に比べると15年間分の退職金が出ないも同然です」(NTT東日本関連労働組合の斉藤隆靖氏)
その結果、Bさんは子会社移籍の際、給料カット分を補うために退職金の一部を50歳から企業年金(月額約3万円、15年間)として支給を受けることにした。こうして老後の生活を支える資金と考えていた企業年金まで在職中に使い果たすことになりそうだという。
政府は、国民の老後の生活を守るための雇用延長制度といいながら、サラリーマンから老後の生活を支える退職金を奪うという真逆の結果をもたらしているのである。
※週刊ポスト2013年3月1日号