野球部に入部した女子高生が主人公の漫画「ザワさん」(週刊ビッグコミックスピリッツ)が、2月25日月曜日発売の同誌で最終回を迎える。女の子の野球選手という異色のキャラと独特の世界観を持つ同作品は、多くのファンを惹きつけてきた。最終回を惜しんで、ファン代表のひとりとして惜別の辞をお届けする。(文=フリーライター・神田憲行)
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週刊ビッグコミックスピリッツに連載中の「高校球児 ザワさん」が最終回を迎える。私の大好きな漫画だ。2月18日発売の12号ではカラオケボックスで「栄冠は君に輝く」を熱唱するザワさんの姿を見て、泣きそうになった。まるで自分の青春の終焉を迎えるような気持ちになっている。
作者の三島衛里子さんとは取材でお会いし、その後何度か甲子園や飲み会でご一緒させていただいた。
取材は2009年の大会出場高を紹介する週刊誌で、特集記事タイトルは「人気漫画家が語る甲子園の魅力」となっているが、実はこの企画提案者は私で、本来の企画意図はちょっと違う。
本来の私の趣旨は、
「野球漫画家がこだわる野球シーンについて語ってもらい、その絵を紹介する」
ということだった。野球漫画家は野球をよくみる。そのなかでファンとしてでなく、自分が描きたいシーン、グッとくるシーンがあるはずだ。それを紹介すれば、コアな野球ファンにも共感してもらえるだろうと考えた。
企画のヒントになったのは、とある大ベテラン漫画家との会話だった。彼は野球漫画でデビューしたのだが、後からデビューした水島新司先生の野球の描き方を見て、「これは勝てない」と感じたという。
「水島さんは選手がバットを持っているシーンが格好いいんですよ。私は選手がバットのグリップを持って、兵隊が銃を持つみたいに肩に担がせていた。水島さんはバットの太いヘッドを鷲づかみさせるんです。そうすると腕の筋肉が盛り上がり、選手の姿がはえるんです」
水島先生にこの件について取材したことがないので真意はわからないが、恐らく水島先生がたくさん野球を見てきた中で、それが絵心をそそられるシーンだったのだろうと思う。
それで当時、スピリッツで愛読していた「ザワさん」のことがすぐ浮かんだ。彼女の絵は甲子園、校舎、グラウンドといった印象的な絵で構成されている。あだち充先生が「俳句のような」と形容した通り、一枚の絵の中にギュッといろんな想いが詰まっている。
「この人は、野球のどこにグッと来ているんだろう。絶対どこかあるはずだ」
それでさっそく企画をたて、取材することになった。だがこのあたりどうも三島さんに誤解があるようで、
「他に有名な先生に断られて私に取材のおはちが回ってきたんだ」
と何回か飲みの席でネチネチいわれたが(笑)、あくまで「ザワさんありき」で立てた企画なのである。
三島さんが出してきたグッとくる野球シーンは、ザワさんが甲子園のマウンドに立ち、セットポジションで二塁ランナーを見ているところだった。
「ピッチャーがイケイケの顔で投げているシーンよりもピンチとか打ち込まれている感じにグッとくるんです。セットポジションのときの表情が好きです」
わかるなあ!!
追い込まれて打者に闘志を前面にむき出しにしなければいけない一方で、ランナーに注意を払う冷静さも要求される。ランナーを背負って(しかもスコアリングポジション)、相反する内面の葛藤を押し殺したないまぜの表情。我々取材席の記者が双眼鏡をいそいそと取り出して投手の顔つきを確認するのも、このときだ。
2008年8月から始まった連載が4年6か月で終わる。三島さん、ザワさん、お疲れさま、というしかない。
ところで三島さんは、
「ザワさんにセクハラ質問ばかりするカンダというスポーツライターを出す」
という約束を私としているのだが、まだ履行されていない。いつか必ず約束を果たしてくれると信じている。