ライフ

ネットに蔓延する疑似科学に騙されない思考法を専門家が指南

 ネットで繰り返し問題提起される「疑似科学」。なぜ人は欺されるのか、どう対処するればいいのか。2010年科学ジャーナリスト賞を受賞し、「ゼロリスク社会の罠」の著者でもある佐藤健太郎氏に聞いた。(取材・文=フリーライター・神田憲行)

 * * *
--疑似科学とは、どんなものを指すのでしょうか。

佐藤:はっきりした線引きは難しいのですが、もっともらしい用語をちりばめて科学を装いながら、科学的根拠がはっきりしないものを指します。多くは何らかの形でビジネスと結びついています。

--たとえばどんなものがありますか。

佐藤:典型は「ホメオパシー」でしょうか。200年前にドイツの医師が提唱した“医療行為”なんですが、レメディという砂糖玉を舐めれば人間の自然治癒力が高まり、病気が治るとされました。これは原理的にも考えられませんし、治療効果もないことは厳密な試験で実証されています。砂糖玉を舐めているだけでは毒にも薬にもならないですが、それだけで病気が治ると思い込んで、他の医療行為を拒否するところが問題になるのです。

 疑似科学に共通するのは、「シンプルでわかりやすい」「博士やタレントなど広告塔になる権威付け有名人がいる」「意外性があって心に残る」といった点です。

 わかりやすさでいえば、たとえば「コラーゲンを食べてお肌がツルツルに」という広告をよく見ますが、科学的な根拠は何もありません。

--えっ、でも牛すじとか食べてツルツルになったとかよく言いますよね。

佐藤:コラーゲンは皮膚の重要成分ですが、胃の中に入ったらばらばらに分解されるので、肌にそのまま行くことはありません。それだったら頭髪の薄い人は髪の毛を食べればいいということになってしまう(笑)。しかし、一度「私には効いた」と思ってしまうと、自分で体験したことは理屈よりずっと強いですからね。

--なぜ疑似科学が蔓延するのでしようか。

佐藤:日本人の「ゼロリスク志向」と結びついていることはありそうです。誰しもリスクを避けたいのは当然ですが、そこに「自然」「副作用のない」といったキーワードで語られると、つい耳を傾けてしまう。ただ残念ながら、どんなにしてもリスクはゼロにはなりません。

 でも疑似科学が繰り返しいろんなものが登場するのは、メディアの責任もやはり大きい。EM菌やマイナスイオンなど、今でもメディアで肯定的に報じられたりします。おかしいなと思った人が指摘しようにも、手間はかかるし負担も大きく、何か自分の利益になるわけでもない。あえて否定するインセンティブがないんです。

--疑似科学に欺されないためにはどうすればいいのでしょうか。

佐藤:科学リテラシーを持てといっても簡単なことではないですが、SNSの活用はいいかもしれません。SNSはいかがわしい情報が拡散するのも速いですが、科学者や専門家がそれを打ち消す動きも速い。ちょっと変だなというものが現れたら、それに関するツイートを探してみるのもいいかもしれません。

 もうひとつ、「その情報が本当だとしたらどうなるか」をよく考えてみること。擬似科学とはちょっと違いますが、今回の原発事故以降、「鼻血が出た、下痢をする」と放射線被害の心配をしている人がかなり出ました。もしそんな症状が出るなら、福島の近くに行くほど鼻血や下痢を起こしている人が増えるはずですが、そうはなっていない。上空を飛ぶために200マイクロシーベルトの被爆をしている国際線のパイロットや乗客は、みんな毎回鼻血を出してなければおかしい。専門知識がなくとも、判別できることはいろいろあるはずです。

【プロフィール】
佐藤健太郎(さとう・けんたろう):1970年、兵庫県生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了。医薬品メーカーの研究職を経てサイエンスライターに転身。「医薬品クライシス」(新潮新書)で科学ジャーナリスト賞2010を受賞。著書に「『ゼロリスク社会』の罠」(光文社新書)、「化学物質はなぜ嫌われるか」(技術評論社)など。

トピックス

全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
JR東日本はクマとの衝突で71件の輸送障害 保線作業員はクマ撃退スプレーを携行、出没状況を踏まえて忌避剤を散布 貨物列車と衝突すれば首都圏の生活に大きな影響出るか
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《全国で被害多発》クマ騒動とコロナ騒動の共通点 “新しい恐怖”にどう立ち向かえばいいのか【石原壮一郎氏が解説】
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
”クマ研究の権威”である坪田敏男教授がインタビューに答えた
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
NEWSポストセブン
“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)
“両手ポケットイン”中国外交官が「ニコニコ笑顔」で「握手のため自ら手を差し伸べた」“意外な相手”とは【日中局長会議の動画がアジアで波紋】
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
土曜プレミアムで放送される映画『テルマエ・ロマエ』
《一連の騒動の影響は?》フジテレビ特番枠『土曜プレミアム』に異変 かつての映画枠『ゴールデン洋画劇場』に回帰か、それとも苦渋の選択か 
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン