国内

マックで夜明かす男性「ハロワはブラック企業ウジャウジャ」

 アベノミクスで世の中がどこか浮き足立つ一方で、ハローワーク通いを続ける人たちもいる。彼らの中には、もはや家すらも持たずファストフード店で夜を明かす人たちも少なくない。作家の山藤章一郎氏がリポートする。

 * * *
 歌舞伎町一番街に足を踏み入れた。個室ビデオで時間をつぶし、午前2時、マクドナルドに入った。3階のイートインスペースで20人ほどが、テーブルに突っ伏している。中高年もいる。チノパンにパーカーの20、30代もいる。足許に、バックパックやキャリー。ワンドリンクで一夜の平安を確保した者たちである。

 格子柄のネルシャツの男の左隣りに坐った。汗と体臭が店内の暖気に掻き立てられて右手から臭う。突っ伏したおでこを乗せた手の甲から指先を無数のヒビが割っている。水を使う仕事か。厚労省の発表では、非正規労働者はこの25年で、約1000万人増加した。若年層の12人にひとりが失業し、所得、消費、貯蓄の格差が飛躍的に広がっている。

 ネルシャツがぐたっと折っていた首を持ち上げた。臭気が動いた。「3時過ぎですよ」声をかけた。「あん、はい」それから半睡のまま、ネルはいくつか応えた。

「ムギョウ状態で……セックスする気も起きないすよ」
「ハローワークに行かないの?」
「ハロワ? ブラックうじゃうじゃ。また使い捨てられ、ウツにさせられ、死にに行くみたいなもんすからね」

「コーヒー飲みますか」と訊くと頷きかけて、ヒビの手を振った。「つうか、食うもんありがたいす」ネルは礼もいわずにチーズバーガーハッピーセット440円に、かじりついた。食いながら10日前まで働いていた甲州街道沿いの店の話をした。ネルはバイトだった。見ている前で、店長が地域担当マネージャーに罵倒される。

「なんだこの売り上げは、しっかりやれオカマ」

 あるとき店長から怨み口を聞いた。「去年1年、1日も休みなかったんだ。本部への報告、他店オープンの応援、しょっちゅう突然、人が辞める、その補充。休日出勤残業代もほとんどつかないし」

〈さんまの塩焼き〉〈ボジョレヌーボー〉季節ごとに〈強化商品〉が搬入され、店長はそれを自腹で買い、売り上げの悪い商品を毎日、思い切り食べた。から揚げ、たこわさび、チャンジャ。ある日、店に応援の社員が来た。来るなり怒鳴りまくった。

「トロトロすんなや、ボケ」若い社員の髪をつかんでフライヤーに顔面を押しつけた。「こらあ、顔、揚げるぞ、お前の」

 バーガーを食い終わったネルは言い足した。

「32歳までこんな状態で働いて。いつでも死ねます」

※週刊ポスト2013年3月8日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

田村瑠奈被告(右)と父の修被告
「ハイターで指紋は消せる?」田村瑠奈被告(30)の父が公判で語った「漂白剤の使い道」【ススキノ首切断事件裁判】
週刊ポスト
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
暴力団幹部たちが熱心に取り組む若見えの工夫 ネイルサロンに通い、にんにく注射も 「プラセンタ注射はみんな打ってる」
NEWSポストセブン
10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
宇宙飛行士で京都大学大学院総合生存学館(思修館)特定教授の土井隆雄氏
《アポロ11号月面着陸から55年》宇宙飛行士・土井隆雄さんが語る、人類が再び月を目指す意義 「地球の外に活動領域を広げていくことは、人類の進歩にとって必然」
週刊ポスト
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
佐々木朗希のメジャーでの活躍は待ち遠しいが……(時事通信フォト)
【ロッテファンの怒りに球団が回答】佐々木朗希のポスティング発表翌日の“自動課金”物議を醸す「ファンクラブ継続更新締め切り」騒動にどう答えるか
NEWSポストセブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン