「これまで最も腐心したのは旧行間の融和」──とあるメガバンクの幹部は語る。1990年代後半から金融危機を経て集約された3メガグループ(三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行)。合併の背中を押したのは不良債権処理と公的資金の圧力であり、「好きで一緒になったわけではない」(同前)というのが本音だ。
金融ネットワークを支えるシステムという「装置産業」の側面はあるが、銀行経営を支えるのは何よりも「人材」である。「旧行意識が蔓延している」と言われた時代もあったが、今、人事や組織体制はどうなっているのか。金融ジャーナリストの森岡英樹とジャーナリストの永井隆の両氏がリポートする。
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当初、3メガバンクは旧行融和を優先するため、役員や管理職ポストはほぼ旧行の規模や合併比率に応じて配分してきた。とくに旧UFJの救済色が強かった三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の場合は、「合併比率(1対0.62)よりもUFJ出身者にポストを多く配分することで、旧UFJ行員の心情に配慮した」(MUFG関係者)と言う。それでも「40代を中心に辞めていく旧UFJ行員は少なくない」(同)という現実がある。
旧住友銀行と旧さくら銀行が合併した三井住友も行内融和には腐心した。組織的にも「個人部門」「法人部門」などといった部門制度によって“縦割り”の弊害が出ていたが、「2007年に発足したプライベート・アドバイザリー本部をはじめ横断的な組織が生まれており、人材の流動化は一層高まっている」(三井住友中堅幹部)という。
旧行の融和に最も苦労したのは3行統合という例を見ない合併を経験したみずほ。2度のシステム障害に見舞われ、トップの退任も余儀なくされた。しかし、逆に危機が行内融和を促進した面もある。2011年には行員の履歴データから出身行の記載を削除したのをはじめ、現在では持ち株会社傘下のみずほ銀行、みずほコーポレート銀行、みずほ信託銀行の3行の人事は「一つのプラットフォーム」で運用されている。
「明日は銀行から信託に移るかもしれない。もう旧行を意識していては仕事は回らないし、実際に同僚の出身行を知らないことも多い」(みずほ中堅行員)
※SAPIO2013年3月号