雪のちらつく平日の夕方、銀座の百貨店にある時計店で、若い女性がゴールドやシルバーをちりばめた高級ブランドの宝飾腕時計をいくつもカウンターに並べて楽しそうに品定めしている。
「私、これにするわ」と彼女が指差したのは、100万円近いカルティエの高級腕時計。しかし、連れの中年男性もまた嬉しそうに、分厚い財布からカードを店員に差し出していた。 これはバブル時代の思い出話ではない。高級サロンを思わせる店内は今、こうした紳士淑女の姿が目立つようになってきている。
日本百貨店協会が2月19日に発表した1月の全国百貨店売上高は、美術品や貴金属など高額品の売り上げが前年同月比6.8%増の211億円と4か月ぶりの高水準となった。 今年初めて元日営業に踏み切ったそごう・西武の広報担当が語る。
「全店の高級雑貨売り上げ(1月累計)は前年比110%で絶好調です。特に宝飾が125%、腕時計も120%の伸びで売り上げ増を牽引しています。最近は“プチ高級品”といえる20万~30万円クラスの腕時計が、自分へのご褒美としてよく売れています。
縁起物の性格が強い福袋や初売りも好調だったことから、景気浮揚に対する期待感の高さがお客様の消費マインドを上向きにしていると感じています」
10兆円を超える景気刺激対策や金融緩和などを柱にした安倍政権のアベノミクスに対する期待感からか、ここにきて消費マインドの上昇が顕著になってきた。 第一生命経済研究所の主席エコノミスト、永濱利廣氏はこう分析する。
「日本経済の景気の底は野田政権末期の昨年11月で、昨年末から既に回復に転じた。安倍政権誕生とともに進んだ円安・株高が個人消費を後押ししている。円安による値上げの前の駆け込み需要で、輸入品の高級家具やワイン、ブランド高級腕時計などがよく売れています」
都内でブランド品の販売、買い取りを行なう「ブランド王ロイヤル」の森田勉社長も、こうした景気の“潮目”を感じるという。
「昨年秋から今年に入って高額ブランド品を求めて来店されるお客様が増え始めました。30万~50万円のシャネルのバッグや120万円前後のエルメスの黒バーキンも、品物があれば飛ぶように売れている。上昇した株で儲けた人たちが多く、記念日でもないのに彼女のプレゼントとして購入されるお客様も目立ってきましたね」
※週刊ポスト2013年3月8日号