「彼からは甘い香りがした」という平易な文がある。小学6年生にこれを書かせても、「かれからはあまいかおりがした」としか書けないといったら信じられるだろうか。
文部科学省によって定められた小学校学習指導要領の漢字1006文字(いわゆる教育漢字)は、常用漢字の中でも特に使用頻度が高いものから選ばれている。だが、日常的に見かける漢字で平易なものがすべて網羅されているかというと、必ずしもそうではない。
例えば「僕」「俺」「彼」「誰」などは小学校では習わない。さらに、冒頭に挙げた「甘」「香」といった感じも除外されている一方で、「穀」「俵」「蚤」などは教育漢字に含まれる。
その漢字を使った熟語の数(複合語形成力)などが選定基準だそうだが、指導要領は1989年に最後の改定が行われて以来、20年以上見直されていない。いまや「雑穀」より「甘味」の時代だと思うのだが……。
※週刊ポスト2013年3月15日号