中国中央部・山西省の山あいにある武郷という小さな町に『八路軍文化園』という“反日テーマパーク”がある。日中関係の緊張が高まる中、今回、本誌はこの施設へ潜入した。
八路軍とは、日中戦争時に抗日戦争を戦った共産党軍のひとつで、現在の人民解放軍の前身となった軍隊だ。
入場料は30元(約450円)だが、90元(約1350円)払えばショー見放題つきのチケットを購入できるようになっている。案内図によれば、園内は「勝利大道」、「軍芸社」、「勝利壇」、「情景劇場」、「八路村」などの7つのエリアで構成されている。
「軍芸社」のエリアでは、ちょうど演劇『太行遊撃隊』が始まるところだった。ホールへと向かうと、既に約200席ほどある会場の半数ほどが中国人客で埋まっていた。
このショーは、舞台上の演劇と、背景のスクリーンに映し出される映像とが連動して物語が進むようになっている。日の丸をつけた歩兵銃を提げて行進する日本兵が映し出されたかと思えば、舞台袖からも日本兵役の男が登場。特に口元に正方形のヒゲがサインペンで描かれた日本人将校は、「バガヤロ」とか「ミシミシ」との奇声をやたらと発し、尋常ではない空気を漂わせている。
この「ミシミシ」という呪文のようなフレーズは、食料を要求する「飯、飯」が訛ったものらしく、中国の抗日ドラマではよく登場するそうだが、あまりに連呼するので、まるで日本人が妖怪か怪人のように見えてくる。
異様な雰囲気で中国人が暮らす村落に現われた日本兵らは、村のリーダーに振る舞われた酒を一気に飲み干したかと思えば、村で結婚式があると聞いて「新婦はどこだ」と大騒ぎ。布を被った新婦に日本兵が襲いかかるが、なんと布の下の正体は男。怒った日本兵が刀を抜こうとするのだが、プゥーというオナラの効果音が鳴りだす。
飲ませた酒は下剤入りだったことが明らかになったところで、ゲリラ兵が日本兵を総攻撃。日本兵が全滅すると、背後のスクリーンに八路軍旗をイメージした真紅の旗が翻り、『レ・ミゼラブル』を彷彿とさせる大団円を迎えるのだ。
あまりに陳腐な「下剤オチ」だったのだが、観客はやんややんやの大喝采。「日本鬼子を殺せ」「小日本をやっつけろ」の声が観客席から次々に上がっていた。
※週刊ポスト2013年3月15日号