電波の周波数帯は国民の公共財産である。テレビ局はそれを格安の「電波利用料」を支払うだけで占有し、莫大な儲けを手にしている。今回、本誌取材により、従来でも安かった利用料が昨年からさらに減額されていたことがわかった──。
安倍政権は「電波オークション」の導入を撤回した。電波オークションとは、電波の周波数帯の利用権を入札にかける制度のことだ。安倍政権は民主党政権下で閣議決定されていた携帯電話向け電波などの入札の導入を葬り去った。
つまり、国庫に入るはずだった数千億円にのぼるオークション収入がフイになっただけでなく、国民の財産である電波が、今後も政府・総務省のさじ加減1つで特定の事業者に独占的に割り当てられ続けることが既定路線になったのである。海外ではオークションによって新規事業者が公平・公正に参入することが当然だが、この国では既得権者がそれを阻んでいる。
「海外の電波オークションの落札額を参考にすると、現在テレビが占拠している帯域も含めて、仮にすべてをオークションにかけたとすると、30兆円近くの価値があると推計できる。安倍政権の方針はテレビ局などによるタダ同然の電波使用という利権を、結果的に維持させることにがった」(民主党政権下で電波オークション導入を提言した鬼木甫・大阪大学名誉教授)
安倍内閣はいまやテレビ局の庇護者である。オークション撤回という“アメ”を与えられたテレビから政権批判の声が消えてなくなったことはうなずける。
実は、政府がテレビ局に与えた特権はそれだけではなかった。テレビ局が毎年払っている「電波利用料」が大幅に引き下げられていたのである。
電波利用料とは、違法電波による混信障害などから電波環境を守るための経費を徴収するという名目で作られた制度だ。
前述したオークションによって得られるのは電波の「利用権」で、電波を使い続けるため「更新料・維持費」が電波利用料だと考えればわかりやすい。全周波数帯をオークションにかけることは難しいので、先の30兆円というのはあくまで試算上の数字だ。それでも、それほどの価値を持つ電波を占有しているわけだから、数百億円の利用料を支払うのは当然だろう。前出の鬼木氏は、妥当な負担額はテレビ業界全体で年700億円を越えるという。
しかし、実際には平成23年度の電波利用料の歳入額約745億円のうち、大半を負担しているのは携帯電話ユーザーだ。ユーザーは端末1台ごとに電波利用料として年間200円を支払い、携帯電話会社が80%近く(約590億円)を負担しているのである。
一方、電波の占有でボロ儲けしているテレビ局は一体いくら支払っているのかというと、わずか7%程度(約60億円)に過ぎない。負担が偏っているのは、携帯会社に比べ、テレビ局が払う電波利用料が不当に安く設定されているからだ。
NHKと民放127社の2010年度の利用料の総額は約60億円。にもかかわらず、同年度のテレビ業界の売上総額は約2兆8157億円にも達する。
簡単にいえば、テレビ業界は売上高に対し0.2%しか仕入れ値がかからないボロい商売なのである。 そんな破格の安値に据え置かれた電波利用料が、さらに減額されていた。
筆者が総務省に情報公開請求したところ、2011年度にテレビ業界が支払った電波利用料の総額は、前年度に比べて5億円も減っていたのだ。NHKは2億5000万円減、民放キー局もフジの9400万円減を筆頭に、大幅な減額が続く。全128社のなかで最も低額の電波利用料しか払っていないローカル局の奈良テレビにいたっては、公共の電波を使用した対価として約54万円しか払っていないのである。
■文/津村雅希(ジャーナリスト)
※週刊ポスト2013年3月15日号