「日本を取り戻す」と宣言して政権を奪還した安倍首相が最初に手がけた補正予算は、4年間の野党時代に失われた自民党の「票とカネ」を取り戻すことに主眼が置かれた。それを象徴するのが農水省の「土地改良事業」(農業農村整備事業)予算の完全復活だ。その内幕をジャーナリストの武冨薫氏がレポートする。
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麻生内閣当時の2009年の土地改良予算は5772億円だったが、今年度の当初予算では2129億円と民主党政権下で3分の1近くまで削減されている。これは数少ない民主党政権の成果である。
政権復帰した自民党は早速、巻き返しに出た。自民党農林部会(小里泰弘部会長)は「麻生内閣時代以上の予算規模に戻す」という方針を決め、農水族議員と農水省が一体となって補正予算に国の直轄事業1640億円と自治体が行なう土地改良事業などへの補助金(農山漁村地域整備交付金1650億円)を合わせて約3300億円を追加したのだ。夏の参院選をにらんだ集票予算であることは明らかだ。
同じく民主党政権時代に大きく公共事業費を削られた国土交通省は、早くから自民党の政権復帰をにらんで予算奪還を準備してきた。昨年夏にはまだ野党だった自民党の議員立法「国土強靱化基本法案」(今後10年間で200兆円のインフラ整備)の策定を支援し、凍結されていた整備新幹線、東京外環道路など大型プロジェクトの建設再開方針を決めた。
それだけに、補正予算には満を持して道路、河川、港湾の公共事業三本柱はもちろん、空港、鉄道(整備新幹線)などに総額1兆8800億円をつぎ込む。その内容は防災名目のインフラ補修だけでなく、全国の高速道路の新設(1261億円)やコンテナターミナル新設(194億円)、「災害時に被災者の防災拠点になる」という理由でちゃっかり役所の庁舎の新設・改修(104億円)まで盛り込んだ。
住民がいない沖ノ鳥島の津波対策にも予算が追加され、事業総額は6年間で750億円になる見込みだ。そうしたインフラ整備には自治体の負担(2分の1~3分の1)が必要だが、政府は「地域の元気臨時交付金」(内閣府)として約1兆4000億円を組み、自治体側の負担がほとんどなしで下水道や道路などの公共事業を発注できる仕組みをつくった。
自治体にすれば臨時交付金は魅力だが、その裏にはしっかり選挙区への利益誘導の仕掛けがある。自民党農水族議員がカラクリを明かした。
「この交付金は早い者勝ち。各省の交付金申請の受付は年度末にかけて行なわれ、短期間で締め切られる。どんな条件の事業に交付金が出るかという各省の情報を得ることができる有力議員の地元自治体ほど事前に申請書を準備できるから有利になる。自民党を応援しないという首長がいれば“予算はいらないのか”と踏み絵を迫ることもできる」
霞が関もそんなことは百も承知である。インフラ予算が取れない省庁まで安倍政権の「公共事業大盤振る舞い」に便乗しようとハコ物のオンパレードだ。
文部科学省は、社会問題化する「いじめ対策」には3億円しかつけていないのに対し、学校校舎の建て替えや改修に3272億円、それとは別に国公私立大学の施設整備に899億円、小中学校の理科教室整備には100億円をつけた。法務省は施設建て替えに193億円、環境省も新設する福島県環境創造センターの建設に113億円、国立環境研究所の施設整備(15億円)も進める。
※SAPIO2013年3月号