売上高5兆円を超える巨大流通グループのイオンが、首都圏で88店を展開するスーパーマーケットのピーコックストアを300億円で買収する。いま、総合スーパーやコンビニなどと激しい価格競争を繰り広げた食品スーパーは、経営が苦しくなり再編の渦に巻き込まれている。その象徴が今回の買収劇だったといえる。
イオンにとっても、“首都圏シフト”は急務だった。大手紙の経済部記者が語る。
「イオンの弱点は、イトーヨーカ堂やセブン―イレブンを展開するセブン&アイに比べて首都圏に拠点が少ないこと。いまやイオン陣営にはダイエーやマルエツといったスーパーのほか、コンビニのミニストップ、小型店のまいばすけっと、その他ドラッグストアがあるものの、都心部はまだ攻めきれていない。今後もいろんな業態を手中に収めながら、グループ規模を拡大させてセブン&アイの追撃を許さない戦略だろう」
東京・名古屋・大阪の3大都市圏に日本の人口の51%が集中しているとのデータもあり、今後、さらに都市部への人口回帰が続くとなれば、イオンの戦略もうなずける。
「買い物の行動半径がどんどん狭まる中、郊外で大きな店舗を構えて待っているだけでは経営は行き詰まる。ダウンサイズ化してどんどん都心部に入らなければ商機はない」(前出・記者)ため、イオンのような総合スーパーが業態の“分割”を迫られているのだ。
しかし、ピーコックの買収は単なる首都圏スーパーの陣取り合戦にとどまらず、流通業界全体の構図をガラリと変える大再編の“序章”に過ぎないとの見方もある。
流通アナリストでプリモリサーチジャパン代表の鈴木孝之氏がいう。
「日本の流通業界は大手グループと総合商社のがっちりとした連携によって成り立っています。2強でいえば『イオン・三菱商事VSセブン&アイ・三井物産』の覇権争いです。そう考えると、三菱商事傘下のローソンがイオングループのミニストップと一緒になっても何ら不思議はありません」(前出・鈴木氏)
既に、ローソン店舗にある情報端末の「ロッピー」を、ミニストップに順次導入するなど、両コンビニは親和性を深めている。また、三菱商事系ファンド会社が買収した高級食品スーパー・成城石井との合流も囁かれている。
さらに、イオンが譲り受けたピーコックは大丸松坂屋百貨店を運営するJ.フロントリテイリングの傘下。なんと、スーパー買収を契機に、百貨店との連携まで深めたい思惑が絡んでいるとの憶測がある。
「イオングループに唯一欠落している業態は百貨店です。かつてイオンとJ.フロントは、パルコ買収を巡って取り合いをしたために敵対関係にあると見られていました。結局、パルコはJ.フロントの子会社になりましたが、今回、ピーコックを差し出すなど接近したということは、将来的にイオンとJ.フロントが百貨店を通じた共同販促のような形で連携を深めるきっかけになるかもしれません」(鈴木氏)
イオンが本当に百貨店の経営参画まで視野に入れているとしたら、あまりにも壮大な再編、そして寡占化が進むことになる。
「コンビニもスーパーも百貨店も首都圏ではオーバーストアで、採算の取れる適地が限られています。だから、イオンのように資本提携やM&Aを繰り返しながら、それぞれの既存マーケットを深堀りしていくしかないのです。首都圏は小売業にとって最後にして最大の攻略マーケットといえます」(鈴木氏)
拡大を続けるイオン。果たして流通コングロマリットの最終形はどこにあるのか。