大震災から2年の節目に、多くのメディアが被災地・被災者の復興の努力や苦悩を描いている。しかし、メディアが取り組むべき問題は他にもある。大混乱の中で検証不可能な情報が錯綜し、津波や原発事故の苦しみに直面した人々の不安を駆り立てた。そうした“センセーショナルな報道”の「その後」を追跡した──。
「福島県浪江町で耳のないウサギが生まれた」というショッキングなニュースが駆け巡ったのは、震災から3か月が過ぎようとする頃だった。飼い主がユーチューブに動画をアップすると、新聞、雑誌で「放射能で生まれた」と大騒ぎになった。
その後、あのウサギはどうなったのか。飼い主の杉本祐子さんに聞いたところ、「2011年7月に、埼玉の里親さんにもらわれていきました。いまも元気に暮らしていますよ。ウサギの耳には放熱作用もあるので、耳のないウサギは暑さに弱い。ウサギの体温が上がらないように、夏はエアコンの効く部屋にいるようです。
里親さんに引き渡すときにはテレビの取材も来ました。里親さんは自分のブログにウサギの写真をアップしているので成長の様子もわかります」とのこと。
しかし、このウサギは本当に放射能による影響で耳を失ってしまったのだろうか。ウサギを診断した北里大学獣医学部の伊藤伸彦教授(獣医放射線学)はこういう。
「被曝の影響の可能性を切り捨てるわけにもいかないので、妊娠中1週間の被曝量(内部・外部の合計)を算出したところ、1.55ミリシーベルトと出た。奇形が生じる線量には閾値があり、通常は瞬間的に数1000ミリシーベルトぐらい浴びないと生じないとされています。ですので、絶対ないとはいえませんが、放射線の影響である可能性は極めて低いと結論づけました」
親の胎内で子が器官形成していくときに、親に強いストレスがかかると血流が滞って奇形になることもあるという。
「一つの可能性としてですが、大地震とその余震で何度も強く揺らされたことが親ウサギのストレスになった可能性も考えられます」(同前)
こういった人間界の騒動をよそに、耳なしウサギが生まれた小屋では、雪が舞うなか、いまも4匹のウサギが元気いっぱいに走り回っていた。
※週刊ポスト2013年3月22日号