花見はいつだろうという暖かな季節になったからというわけではないだろうが、ドコモダケが増殖中だ。これまでキノコ型の人形の姿だったドコモダケだが、キノコの傘の部分を模したドコモダケ帽子をかぶることで、様々な派生キャラクターを生んでいる。
テレビCMでは俳優たちがドコモダケ帽子をかぶって、人間になったドコモダケを演じ「ドコモ田家」一家となった。国民的アイドルとしてどの年齢層にも広く知られるAKB48も、ドコモダケ帽子をかぶって「AKBダケ」に変身している。
ドコモダケの姿は、CMだけでなく街の中でも増殖中だ。青木琴美の漫画『カノジョは嘘を愛しすぎてる』の作中に登場する人気バンドCRUED PLAYがドコモダケ帽子をかぶり、街頭ビジョンやポスターで渋谷の街を埋め尽くした。そして携帯売り場へ行くとドコモの販売担当員が皆、ドコモダケ帽子をかぶって接客している。
2005年にドコモの料金案内CMに登場したキノコ型のマスコット「ドコモダケ」は、そもそも、ドコモだけのサービスをわかりやすく伝えるための企業キャラクターである。広告のプロによって造られた完成度が高い造形の企業キャラクターの場合、一時的なブームにはなっても、2006年に登場した「ひこにゃん」に代表される”ゆるキャラ”のように長く親しまれるのは難しい。
ところが、ドコモダケは誕生から5年以上が経つ今も、多くの人に親しまれている。突飛にも見える今回のドコモダケ帽子についても「かわいい」という声が多く聞こえる。同じ帽子を買いたいと探す女性もいるほどだ。企業キャラクターを元にしたドコモダケ帽子が「かわいい」と受け入れられているのはなぜなのか。
ゆるキャラブームを経た今だからこそ、ドコモダケは企業キャラクターの枠を超えた親しまれ方をされているのだと、『ゆるキャラ論 ゆるくない「ゆるキャラ」の実態』(ボイジャー)の著者であるキャラクターコンサルタントの犬山秋彦氏は言う。
「90年代のキャラクターブーム、続けて、ご当地キャラクター『ひこにゃん』から爆発的に広まった”ゆるキャラ”ブームを迎えたことで、着ぐるみをはじめとした、何かをかぶったキャラクターへの抵抗が大人からもなくなりました。そういった素地ができあがった今だからこそ、有名人がドコモダケ帽子をかぶっても抵抗なく受け入れられたのでしょう。
人間が被り物をすることで別のキャラクターに扮すると、2.5次元的な感じになり生々しさが消えます。有名人が半キャラクター化すると、その人がもともと持っているファンやイメージを超え、より多くの人へメッセージが届きやすくなるのです。マンガのキャラクターになるとさらに感情移入しやすく、共感しやすくなります」
今やキャラクターはTwitterやFacebookといったSNSで会話をする相手となり、自分の感情を代弁するツールへと変容した。もともと、普通に情報を伝えるよりも、キャラクターを通して伝えられた方が、人々に受け入れられやすい事実は知られていた。従来は広告や宣伝のプロたちが活用していたその性質を、普通の人たちも日常生活で利用するようになったのだ。
たとえば、無料メール・メッセージアプリのLINEで、ドコモダケのスタンプが公開後1か月で約700万ダウンロードを数え、4,000万回近い利用があったという。こういった現象は、人々がキャラクターへ求めている性質を象徴し、ドコモダケが伝えたいことを代弁してくれるキャラクターとして、人々に浸透していることも証明している。
「キャラクターというのは、コミュニケーションツールになることで自分の感情を託す存在となり、親近感が増します。LINEのスタンプになることで、ドコモダケはユーザーとより一体化したといえるでしょう」(犬山さん)
企業のメッセージを届けるために誕生したドコモダケは、多くの人から気持ちを託されるキャラクターとなった。いつでも、どこでもコミュニケーションを実現する移動体通信事業者を象徴するキャラクターとして、ぴったりの存在になったといえるだろう。