高校バスケ部員の自殺や女子柔道の告発騒動に端を発した体罰問題は、スポーツ界全体で「体罰とは何か」を議論する動きにつながっている。そんななか、「アントニオ猪木のビンタは体罰か」という論争が持ち上がった。
弁護士や学者らで構成する「日本スポーツ法学会」は、2月19日に参議院議員会館で、体罰に関するシンポジウムを開催した。 その席でサッカー解説者のセルジオ越後氏が、唐突にこう問題提起した。
「アントニオ猪木が人を叩く行事をやってるけど、あれは体罰じゃないんです」
猪木がイベントで参加者たちにビンタをしていくのは、参加者たちも望んでいるから体罰にはならない、という理屈である。
「どの部分で体罰になるんですかね? 手を出してる監督も“アントニオ猪木”かもしれないよね。だからすべてが体罰じゃないってことを、もう一回みんな冷静になって、大変深刻な問題ですから」(同前)
これに反応したのが、元陸上選手の為末大氏だった。
「先ほどの猪木さんの件なんですけども、多分コミットメント(関わり合い)の話だと思うんですよね。僕は、殴られたいって人と、殴ってやろうっていう人の(関係)があれば良いと思うんですけど、今回の柔道でも学校でも、その人に指導を受けざるを得ない、選べないという問題がある」
彼らの白熱した議論に、主催した日本スポーツ法学会の白井久明・事務局長も考えさせられたという。
「スポーツの場で指導者のビンタを希望しているケースもあるのでは、ということで話題にのぼったが、猪木さんの場合もテレビ的な演出で嫌々されている人や、その場の雰囲気で巻き込まれた人もいるはず。これからこういった体罰に対する温度差を議論していくことになります」
プロレスに疎い事務局長は、会合後、わざわざ猪木について調べたという。
※週刊ポスト2013年3月22日号