「会津弁がわかりにくいので字幕をつけて欲しい」
「何言ってるのか聞き取りにくいよね」
綾瀬はるか(27才)が主演しているNHK大河ドラマ『八重の桜』に、視聴者からこんな声が上がっている。この作品は、会津藩の砲術指南の家に生まれ、のちに同志社大学を創設した新島襄の妻となった八重の生涯を描いたストーリーで、八重や会津藩士たちのセリフはすべて会津弁だ。
山口県の下関市立中央図書館館長の安冨静夫さんが言う。
「綾瀬さんが演じる八重さんの会津弁は忠実すぎるところは味があるのですが、よく聞かないとわからないところもありますね。それに、ドラマは会津藩からの視点になっているので、長州が敵のように描かれるのは複雑な思いではあります」
山口県はかつて長州藩があった地。長州藩は、戊辰戦争を官軍として会津と戦った。明治以降、会津藩の悲劇や白虎隊の悲愴なストーリーが明らかになる一方で、長らく長州は悪者として描かれてきた。長州には、近代日本の礎を作ったというプライドと会津の遺恨を背負っているという、複雑な思いを感じながら見ている人もいるようだ。
『八重の桜』の会津弁がわかりにくいという指摘は、地元会津の人からも出ている。
「綾瀬さんの会津弁はネイティブに近いのですが、どちらかといえば現在では年配者が使っている会津弁という感じがして、会津地方以外の人には字幕が必要かもしれないと思いました。また、八重が子供だったころの放送回では、われわれが使っている会津弁とは違い、地元の人間ですら“字幕がほしい”と思ったぐらいです」
と言うのは、会津藩士の末裔で会津若松観光物産協会の佐藤功武さん。会津弁とひと口にいっても、実はさまざま。ドラマの舞台となる城下の会津若松と、ひと山越えた集落とでも違いがあるという。
「たとえば“あなた”は会津若松では“おめ、にしゃ”。南会津では“にし”と言います。“にしゃどこだ?”となれば“あなたどこから来た?”という意味になります」(佐藤さん)
会津以外の地域に住む人にとっては「?」な言葉のオンパレード。そこで『八重の桜』によく登場する方言を解説していく。
●「ごめんなんしょ」「ありがとなし」
語尾に「し」や「くなんしょ」をつけることで目上に対する尊敬語になるという。
「“し”は“です”、“くなんしょ”は“ください”という意味になります。“ごめんなんしょ”であれば“ごめんなさい”。どちらかといえば“失礼します”の意味で使われ、英語でいえば“エクスキューズミー”に近いニュアンスになります」(佐藤さん)
●「なじょ」
八重が相手に何かを尋ねるときに使う「なじょした?」という方言もよく出てくる。「なじょ」は、「どうした」など状態をあらわす「何如」が語源。これは相手の様子をうかがうときによく使うと教えてくれたのは、小料理屋『こんべぇ』(東京・新橋)を営む会津出身の星喜久江さん。
「私が生まれ育った大内宿のある下郷という地域では子供たちに“学校はどう?”と聞くときに“学校なじょだ?”と尋ねます。使うのは60代以上の年配者が中心ですが、今でもよく飛び交う言葉ですね」(星さん)
※女性セブン2013年3月28日号