大人気ブログ『中国嫁日記』の作者、漫画家でイラストレーターの井上純一氏は、40歳のときに、ひとまわり以上年下の妻、月(ゆえ)さんと結婚した。「一生結婚しないだろうと思っていた」というが、若くてかわいい中国人女性に、オタク男は初対面から好意的に受け入れられた。2月末に刊行され、すでに3刷15万部になった『月とにほんご 中国嫁日本語学校日記』(アスキー・メディアワークス)の著者でもある井上氏が、中国女性に人気の男性像について語った。
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――少し前に友人が「オタクの彼氏は浮気をしないからいいよ」と絶賛していたことがありました。オタク男を自称する井上さんから見て、それは真実だと思いますか?
井上:オタクが浮気しないのは、近寄ってくる女がいないからですね。あと、自分で女性をひっかけようと思わないからです。近づいてくる女がいれば浮気すると思いますが、そんな女性はいない(笑)。オタクはめんどくさくて、男として魅力があるわけじゃないですから。それでも、オタクが浮気をしないという事実は正解だと思いますよ。
――日本では今ひとつと評価されることもある、浮気をせずまじめなところは、中国の女性にはどう映るのでしょうか?
井上:『中国嫁日記』(エンターブレイン)でも描いたように、中国で一番重要視されるのは、誠実なことです。浮気しないということは、かっこいいことよりも全然、重要なことです。
――そこまで重視されるのは、浮気されるリスクが高いのでしょうか?
井上:その通りです。中国では金が入ると、すぐに浮気します。日本円で月に5万円くらいのお金で女が囲え、お金のために体を開く女性が山のようにいる。そりゃあ、浮気しますよ。人間が多いというのはそういうことです。中国は人口が13億人ですが、実際には届け出されていない人を含めると16億人いると言われている。それだけ多くの人がいれば、色んな人がいる。そして人件費が安いですから、女性も安いわけですよ。
――誘惑が多いなかでまじめというのは、とても重要なんですね。
井上:儒教の教えが色濃く残っていますから、浮気しないのはとても重要なことです。もうひとつ、儒教の国らしい話としては、親を大切にするのは美徳だという認識があります。
中国ではいま、ひとりの男性を幾人もの女性が囲んで、点数をつけるテレビ番組が流行っています。減点法で採点していき、その点数が最後まで残っていたら、男性は交際したい女性を指名できるという仕組みです。
男性と、彼を取り巻く女性たちが質疑応答しながら、その内容を判断して印象が悪いと点数を下げます。基本、出演した瞬間からどんどん点数が下がっていくのですが、それが必ず止まるときがある。その好印象を与えるポイントが、日本じゃ考えられないようなことなんです。確実に点数が止まるパターンがあって、男に病気の親がいて看病をしているという話が明かされると、間違いなく全員の好感度が下がらない。
――日本だと、親の介護をしている独身男性は敬遠されますね。
井上:日本と逆なんですよ。その番組は公開放送なのでお客さんを入れているのですが、みんな、涙ぐんで感動している。病気の親を看病しているという誠実さが要求されるのが中国なんです。視聴者参加型の、こういったテレビ番組が中国ではとても人気があります。
もうひとつ、転職したい人がやってきて、その人に対して経営者たちが点数をつけ、一番高い点数をつけた人が雇うという番組も人気があります。視聴者参加で、人間に点数をつけるというのがすごく面白いと感じているようです。
――中国では仕事がない人が増えているという報道が増えていますが、その影響がテレビ番組にも出ているのでしょうか。
井上:日本と同じで、金になる仕事がないという話です。
たとえば、工員の半分しか給料をもらえないのに、事務職の求人をすると高学歴の人がたくさん応募してくるんです。高学歴なのに工員になっては、家に帰ったときに面子が保たないけれど、事務なら保つからというんです。こちらとしては、工員が足りないからそちらへ応募して欲しいのに来ない。贅沢病みたいなものです。日本とよく似ていますよ。急速にこちら側に来ていますよ。
――若者はあっという間に、高度成長期の匂いがしない世代になっているのでしょうか。
井上:世代が異なると、上昇志向が突然、無くなるんです。中国では生まれ世代ごとに呼び名があって、まったく別の性質を持っていると言われています。極端に変わるのは1980年代生まれの“パーリンホウ”から。何を考えているか分からず、贅沢に慣れていて楽してもうけようという気分が強いといわれています。
次が1990 年代生まれの“ジューリンホウ”。それまであった上昇志向がなくなり、好きなことをやって適当に稼げればよくて、自分探しとか自己実現を気にする。2000 年代生まれの“リンリンホー”に至っては完全にデジタルネイティブで、リアルよりもネットの人間関係が重要。若い世代ほどオタクが多くなりますね。中国のコミケみたいなイベントには、若い世代の人たちばかりです。
――人を雇う側は、世代の違いで仕事の仕方が変わると承知していないとならないんですね。
井上:工場の工員レベルでも違いが出ます。それこそ、水商売の女の人でも違うんですよ。昔は金のためだったら何でもやったのに、若い世代は嫌なことはやらない。嫌な客にはつかず、すぐに休んだりする。日本と同じようなことになっています。
ところが中国は広いから、田舎からやってきた子は生まれた世代の雰囲気とは違っている。若くても上昇志向があったり、家族へ仕送りするために仕事も休まない。今は、地方出身の少数民族が頑張っているんです。工場でも、頑張っている工員は少数民族が多い。
ただ、とても遠い田舎からやってこなければならないので、かなり人数が少ないんです。そのため、結局は近くの人間から集めて人数をそろえますが、だらだらとして働かない世代に悩まされています。
■井上純一(いのうえじゅんいち)1970年生まれ。宮崎県出身。漫画家、イラストレーター、ゲームデザイナー、株式会社銀十字社代表取締役社長。多摩美術大学中退。40歳で結婚した20代の中国人妻・月(ゆえ)の日常を描いたブログ『中国嫁日記』が1日に7万アクセスを数える人気を集め、2011年に単行本化。『中国嫁日記』1巻・2巻(エンターブレイン)は累計50万部を超えた。昨年4月から広東省東莞市へ移り住んでいる。最新刊は『月とにほんご 中国嫁日本語学校日記』(監修・矢澤真人/アスキー・メディアワークス)。