「ビジネスクラスの乗客はファーストクラスの乗客よりも感じが悪い」――航空会社ではこんな話が周知の事実として伝わっているという。ビジネスクラスは、ファーストクラスよりはサービスは手厚くないもののゆったりしたシートで料金も決して安くはない。この違いはどこからくるのだろうか? 『「感じが悪い人は」は、なぜ感じが悪いのか?』(講談社)の著者で、このテーマを関係者にヒアリングで調査した松下信武さんに聞いた。
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外資系の航空会社、国内の航空会社の関係者に調査し、彼らの声はほぼ一致しました。ビジネスクラスの乗客はファーストクラスの乗客よりも感じが悪いと。もちろん、ファーストクラスにもそのような乗客はいると思いますが、感じの悪い乗客はビジネスクラスのほうがはるかに多いようです。
ビジネスクラスのクレームには、理不尽な要求を突きつけて、客室乗務員を困らせるという種類のものが多いのが特徴です。彼らは、客は売り手よりも上位にいるという意識をもっていて、お金を払えばどんな要求でもまかり通ると思っている。
ビジネスクラスに乗るビジネスマンには、中間管理職の上位クラスの人も多いですが、彼らは企業内での自分の地位をそのまま機内に持ち込む傾向があります。彼らは社内で部下への人事評価や命令、社外との厳しい交渉などを日々、行い、相手と対立する状況に慣れてしまっている。そのためちょっと気に入らないことがあると、対立モードに頭が切り替わり、客室乗務員からサービスを受けても“高い料金の席なんだからこれぐらいのサービスは当然”と考えてしまうのです。
ビジネスクラスのビジネスマンには、会社の経費で乗っている人も多いですが、自分でお金を払っていないから、現場で一生懸命働いている客室乗務員の気持ちがわからないというのも理由のひとつでしょう。ある客室乗務員は、自腹でビジネスクラスのチケットを買っている人の中には、感じの悪い人はいないと言っていました。
自腹でビジネスクラスのチケットを買うような人は社会的に成功していますから、経済的にも、精神的にも余裕があります。これはファーストクラスの乗客がビジネスクラスの乗客に比べて、感じが悪い人が少ないということにもつながります。もちろん、ファーストクラスはビジネスクラスに比べて客室乗務員一人当たりの乗客数が少ないためサービスが手厚く、乗客の性格やコミュニケーション能力に関係なく、客室乗務員が感じよく接することができる環境にある、ということもありますが。
エコノミークラスの感じの悪い客についても説明しておきましょう。エコノミークラスは、ファーストクラスやビジネスクラスに比べて狭いスペースに、多くの乗客が押し込められています。ツアー客も多いです。たいていのツアーは何の問題も起きないですが、クレームの常習者がツアーに加わっているときは、ひとりのクレーマー的な言動がツアー全体に伝染し、ツアーグループからのクレームが増える傾向にあるようです。このようにクレームが伝染する現象はエコノミークラス特有の現象だそうです。
社会的な状況には、“仲良くする状況”と“対立する状況”に分けられます。その際のコミュニケーションは“相手と仲良くするためのコミュニケーション”と“相手と対立して説得するためのコミュニケーション”のふたつです。直面する状況によって適切なコミュニケーションを選択しなければ、感じが悪くなってしまいがちです。
乗客と客室乗務員の関係はどうかというと、“仲良くする状況”ですから“仲良くするためのコミュニケーション”をとらなければなりません。にもかかわらず、これまで述べてきたビジネスクラスの乗客の例では“対立する状況”ととらえて、乗客のほうが客室乗務員よりも上だという意識で“対立するコミュニケーション”をとってしまうため、感じが悪くなってしまうのです。