『エロエロ草紙』は1930(昭和5)年に作家・酒井潔が著した。出版前の検閲で「公序良俗を乱す」と判断されて発禁処分を受けた、いわく付きの書物だ。
同書は長らく国会図書館内でマイクロフィルムの形でしか閲覧することができず、戦前の社会や文化を調べる研究者以外は目を通すこともない、まさに“封印された文献”だった。
しかし、資料を劣化損傷から守ることを目的とした国会図書館収蔵資料のデジタル化が4年前から始まると、状況は一変する。
『エロエロ草紙』もやがてデジタル化され、2011年6月からインターネット上に公開されると、その奇抜なタイトルがツイッターなどで拡散され、アクセス数が増えていった。
「アクセス数ランキングのベスト30に初めて登場したのが昨年の5月でした」(国立国会図書館広報係)
翌6月、ついに『エロエロ草紙』は国会図書館がネット上で無料公開している約47万点の古典籍や和図書、雑誌類の中で閲覧数1位を記録するに至り、その勢いは今もとどまるところを知らない。
文化庁が紀伊國屋書店と組んで、2月1日から3月3日まで行なった電子書籍の無料配信実験「文化庁eBooksプロジェクト」でも同書は対象作品の13作に選ばれた。そして、ここでも芥川龍之介や夏目漱石、永井荷風といった大作家の名作はもちろん、『平治物語絵巻』のような歴史的資料を抑えてアクセス数1位を記録したのだ(『エロエロ草紙』のダウンロード数は1万1749。2位は芥川の『羅生門』で1万163)。
国会図書館サイトでのアクセス数でも、『地球全図』や『古事記』を突き放し、月間2万5738アクセスで首位を独走中だ。
大衆文化論が専門の永井良和・関西大学教授も、時ならぬ“エロエロ現象”に注目している。
「発禁本がデジタル資料化される以前は、古書店で探すか、面倒な手続きを経て国会図書館の閲覧室に入るしかありませんでした。それが一般の方々も、ワンクリックで読むことができるようになった。まさにデジタル化の恩恵ですね」
都内の30代の男性は、実際に『エロエロ草紙』をダウンロードした。
「昭和初期の書物に“エロエロ”って題名をつけたセンスにはびっくりしました。おまけに無料なので、はやる心を抑えながらページを開きました」
※週刊ポスト2013年4月5日号