「忙しい それでも集まる 喫煙所」とは、新聞紙上に掲載されたサラリーマン川柳の一句だ。新年度を前にもっぱら喫煙所の話題は、悲喜交々だった人事異動の総括といったところか。
大手電機メーカーに勤務する40代男性課長が安堵の表情でいう。
「会社の業績が低迷する中、自分も他部署への異動を覚悟していたのですが、なんとか踏み止まりました。いつも人事の噂はタバコ部屋で飛び交い、ここぞとばかりに社内イチの事情通が暗躍します(笑い)。また、その人の予想はほとんど的中するので不思議なんですよね」
この社員によれば、喫煙所で囁かれる人事情報は信憑性のあるものから、自分のポジションや出世コースへの願望が込められた恣意的なものまで様々だという。そこで、各部署に顔が広い“社内評論家”が喫煙所人事の予測をもとに、あちこちで観測気球を上げることによって、次第に確度が高まっていくという。
非喫煙者が聞けば、「その情報収集力を仕事に活かせ!」と責められるのが関の山だろう。しかし、普段、隅に追いやられがちな小さな喫煙所が、社内の人間関係を築く大切な「社交場」になっている現実も無視できない。
「喫煙所に集まってくる人たちは上司や部下に関係なく、所属もいろいろ。そこで普段はほとんど接する機会のない他部署の課題や悩みを耳にすることで、組織全体を見渡す広い視野を持つことができます」(30代・IT企業)
分業体制が進み、社内横断的なコミュニケーションが不足する時代にあって、喫煙所は立派な会議室にも早変わりする。
また、何気ない雑談が良好な人間関係につながる例も枚挙にいとまがない。
「以前、喫煙所で他部署の上司と釣りの話で盛り上がったことがありました。もちろん立場が違うので『一緒に行きましょう』なんてことにはなりませんでしたが、昨年からその人が予期せず私の直属の上司に。喫煙所でのコミュニケーションがあったおかげで、仕事の意思疎通もスムーズです」(30代・金融)
「女子はタバコを吸わない人が多いので、喫煙所でも肩身は狭いのですが、『今日のスカート、春らしくてカワイイね』なんて男性から言われるとお世辞でも嬉しい。またオシャレして仕事頑張ろうという気になります」(20代・マスコミ)
転職サイト「DODA」のアンケート調査によると、ビジネスパーソンの54%が「タバコは職場の人間関係に影響する」と答えている。しかも、興味深いことに喫煙者49%に対して非喫煙者55%と、タバコを吸わない人のほうが喫煙所の人脈形成に羨望の眼差しを向けている。
「喫煙所で別の部署の人や役員などと知り合え、人脈が広がると思う」
「タバコ部屋を外から眺めていると、結構会話が弾んでいるように見える」
といった回答例があった。そこで、今後問われそうなのは、喫煙者と非喫煙者の「情報格差」や「人脈格差」だ。最近では都内飲食店にタバコならぬストローでシャボン玉を吹かす溜まり場「シャボン玉ステーション」まで登場したらしい。
仕事や私生活で息詰まったとき、利害の対立を抜きに人々が寄り合い、雑談に花を咲かせる場があるのは精神衛生上も大事なこと。喫煙所を含めた休憩スペースの有効活用に知恵を絞り、「まぁ、一服どうですか?」の文化を残す余裕があってもいいのでは?