生活保護受給者が、保護費をパチンコなどで浪費している姿を見かけた市民に情報提供を求める、兵庫県小野市の「福祉給付制度適正化条例」が4月1日、施行された。
この条例は場合によっては見た目だけで「通報」され、市の推進員が疑わしいと判断した場合には、実態調査も行なわれる。さらに調査の過程で不正受給等が明らかになれば、刑事告発等で厳正に対処するという内容。
現地はさぞ混乱しているだろうと、本誌記者が小野市のパチンコ店に潜入取材を敢行。ちなみに記者は普段からどう見ても金持ちには見られない風貌である。
兵庫県の中南部に位置し、人口約5万人が住む小野市内には、全部で5軒のパチンコ店がある。市役所近くにあるA店に入ってみると、大音量で流れるBGMとは裏腹に、パチンコ台の列には中高年の客が数人いるだけだ。
条例の影響で客がパチンコ店を一気に離れたのだろうか。店内をウロウロと歩き回っても、通報されるどころか一向に声をかけられる気配すらない。常連だという40代自営業の男性客に声をかけてみた。
「週末以外はいつもこんなもん。通報? 誰もせいへんよ。みんな自分が勝てるかどうかしか関心あらへん」
ならばと、タクシーで10分ほど離れているB店へ。A店同様、客はまばら。茶封筒から取り出した千円札3枚でパチンコを打ち始めたが、おとがめなし。わずか10分でスッテンテンに。
仕方なく周囲の台を打っていた客に話を聞いた。
「『受給者です』って名札つけとるわけやないし、誰が受給者かわからん」(60代男性)
「通報して逆恨みでもされたらバカらしい」(40代女性)
と、無関心。さらに、受給者らしき人がよく来るというC店に行ったが、店員は、「受給者の方は何となくわかりますが、お客さまですから通報するのは……」と、早くも条例がきちんと機能するかどうかさえ怪しい雲行きなのだ。
条例施行後の通報件数について市は「答えられない」と回答。そこで、小野市の蓬莱務市長を直撃した。
「パチンコをやってはいけないとはいっておりません。保護費を過度に浪費してほしくないのです。本来、生活の安定向上のために給付される保護費を浪費して生活に困窮することは、誰もがおかしいと思うはずです。この当たり前のことをいえる環境を整えただけです」
小野市で生活保護を受けているのは120世帯ほど。ひょっとして、「釘を刺した」だけで打ち止めか。
※週刊ポスト2013年4月19日号