子供たちが胸躍らせて迎える、入学シーズン。この時期は、ママたちにとっての大切な人間関係のスタート地点でもある。同い年の子供を持つ親同士のつきあい、いわゆるママ友関係が同時に始まるからだ。
最初ママ友づきあいだったのが、知らず知らずの間に“格付け合い”に巻き込まれてしまっているという。互いに格付け合うことで生じるママ友間の「格差」。それが特に近年苛烈さを増し、ヒンドゥー教にまつわる身分制度「カースト」になぞらえて「ママカースト」と呼ばれるほどだ。
野球チームの“エースで4番”同様に、受験ママグループではいちばん成績が良い子の親が、社宅ママグループでは夫の役職がいちばん上の妻が、ボスママであったりする。
『ママ友のホンネ。』(ぶんか社)などの著書があり、100人を超えるママ友がいるという漫画家・又野尚さんによると、今どきの母親の多くは、こうした格付けや上下関係を意識し、相手を刺激しないよう自らの“ランク”に伴った行動をとるのだという。
というのも、自らの“立ち位置”を自覚していない母親は、グループ間で嘲笑の対象にされることがあるからだ。
「美人で上品な奥さんなんですが、グループのなかで“自分の子がいちばん優秀”と思い込んでいるかたがいました。子供の塾の成績やスイミングの成績、鉄棒ができるかどうか、そういうところをすごく気にしているわりに、子供の成績が伴わず、だいたい他の子より下。
階段を上がるときに、英語の練習だといって“ワン、ツー、スリー”と、子供にわざわざ言わせていたときには、“何なの、この人”と周囲の反感を買っていましたね」(又野さん)
ママ友社会で上手に立ち回るには、グループの“空気”を読む必要があるという。
しかし、それが緊密すぎる関係を生み出し、息苦しさにつながることも少なくない。エッセイストの鳥居りんこさんは、ママ友づきあいでの「メールの3分ルール」に悩まされた経験があるという。
「専業主婦のグループにいたときのことです。おしゃべりで“メールってだいたい何分くらいで返す?”という話題になったとき、ボス格のママから“3分以内だよね”というセリフが…。それ以来、メールは3分以内に返事を返さないと“失礼”という暗黙のルールができあがってしまいました。なかには、こうしたママ友関係に耐えられず、精神的に追い詰められ、ノイローゼ気味になって引っ越したママまでいると聞いたことがあります」
グループのルールを破ると、自分とわが子が仲間外れになる――そんな呪縛から、自らの懐事情をかえりみずにランチ会に参加してしまう“ランチ会地獄”、というのもよく聞く話だ。
最近、こうした呪縛に拍車をかけているのが、スマートフォン(スマホ)。グループ間での無料通話や無料メールが手軽にできるスマホ用アプリ『LINE』などがママ友の連絡ツールとして定着しつつある。そしてこの『LINE』のグループに入るかどうかが一種の踏み絵のような存在になっているという。
「ママ友に『LINE』に登録するように言われたんですが、スマホにするとお金がかかりますし、私も主人も『携帯は電話とメールができればいい』という考え。ところが、いつの間にか学校のグループのお知らせがすべて『LINE』のグループを通じて届けられるようになっていき、そのうちにお知らせが届かないのは私だけという状態に。結局、スマホを購入することになりました」(静岡県在住・47才・パート)
笑顔の裏で、負の感情が渦巻くママ友社会。厄介なのは、一度ママ友グループにはいって自分が格付けされてしまうと、その立ち位置からなかなか抜けだすことができなくなってしまうことだ。
昭和女子大学特命教授の福沢恵子さんが言う。
「私は女性の再就職のサポートや、就労支援を行っているのですが、専業主婦のかたが働くのにいちばんネックになるのって、何かわかりますか? 実は夫でも姑でもなくママ友なんです。“そんなに働きたいの? だったら、私たちとつきあう暇はないわよね”なんて言ってプレッシャーをかけてくることも結構あるんです。だから、“もう一度働きたい”とはなかなか言えないんですよ」
※女性セブン2013年4月18日号