夫の給料は上がらないうえに、パートの妻にはクビ切りの時代がやってくる。 この4月に施行された新労働契約法では、今後、同じ会社で5年以上継続して働いている派遣社員やパートが申し出るだけで、会社は雇用期限がない「無期雇用」にしなければならなくなった。
現在、パート社員の多くは契約書もなく、いつ会社から「明日から来なくていい」とクビ切りに遭うかわからない不安定な身分だが、「無期雇用」になると、勤務日数や賃金などの条件は変わらないものの、解雇には厳しい制約が課せられ、定年もなく何歳まででも働くことができる。
そう聞くと派遣やパート労働者には朗報のようだが、これが年金支給開始年齢の引き上げと並ぶ悪法と見られているのだ。
社会保険労務士の佐藤広一氏はこう指摘する。
「企業は正社員のクビ切りが難しいため、業績が悪化したときに雇用調整がやりやすいように派遣やパートなどの非正規労働者を増やしてきたわけです。だからそのパートを無期雇用にするなど本末転倒。この法律ができたことで、企業がパート社員に改めて『更新の上限は4年とする』という内容の契約を結ぶケースが増えています。5年を過ぎると無期契約になるので、最初から4年で契約を打ち切るためです」
“クーリングオフ”と呼ばれる手法も横行しそうだ。勤務年数が5年に達する前にいったん解雇し、6か月後にまた雇用する方法だ。いったん契約が途切れれば、企業は無期雇用にしなくていいが、パート社員にとっては馴染んだ同じ職場で働くためには半年も失業しなければならなくなる。
大手弁当チェーンで働くパート主婦が怒る。
「10年間コツコツ働いて会社に評価され、時給もかなり上げてもらった。その期間を入れて5年間で無期雇用になれるのなら助かるが、この制度は過去の実績は計算されないそうです。このままではあと4年で別の仕事を探すか、半年間休まなくてはならない。それならこんな法律ないほうがいい」
※週刊ポスト2013年4月19日号