ネット選挙解禁によって各党の獲得議席はどう変わるか。「自民に有利だ」と自信を深める安倍首相の目論見は、外れる可能性が少なからずある。選挙予測の第一人者であるジャーナリスト・野上忠興氏はこう予測する。
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ネット選挙の影響について、自民党選対関係者は「向かい風の陣営がより不利になる」と分析する。欧米諸国の事例を見ても、確かにネガティブ・キャンペーンの“破壊力”は大きい。政策上の失敗や失言などマイナスの情報は瞬く間に拡散する。短い選挙期間中に挽回するのは難しい。
近年の日本の国政選挙でも、匿名掲示板上などでは政権政党のだらしなさが批判の的となってきた。そうした盛り上がりに加え、ネット選挙の解禁で政党や候補者自身のHPやアカウントが常にウォッチされ、些細な言動から大炎上するリスクが高まる。安倍首相は70%近い内閣支持率を理由に、ネット解禁は「自民が有利」と考えているのだろう。だが、安倍周辺からは複数の不安の声があがる。
「参院選までにネット上で自民党や安倍政権が批判されそうな政策テーマがいくつもある。既にTPPの交渉参加について『安倍にはがっかり』『自民党は嘘つき』といった書き込みがどんどん増えている」
「政権発足から間もないのに支持率が高すぎるのが気がかりだ。地元選挙区では、最近の総理は休日のゴルフや高級料理の会食を重ね、増長しているとの指摘まである。風向きが変われば、こうした言動もネット上での炎上に繋がりかねない」
順調に見える安倍政権は、実は多くの「炎上懸念案件」を抱える。例えば、政権発足以来右肩上がりだった「株価」は海外の景況次第で下落基調に転じかねない。有権者の一大関心事である「賃上げ」も、政府がいくら要請したところで企業はベアなどできない。ボーナス増となる企業も一握りである。
「選挙制度改革」もそうだ。昨年11月の党首討論で安倍氏は当時の野田首相に“国会議員自らが身を切る改革”を約束した。しかし、大幅な定数削減を含む抜本改革はどこへやら、区割り変更でお茶を濁そうとしている。加えて本人は回復をアピールするものの、「健康不安」についても周辺からは、“ストレスがかかる局面になったらどうなるか……”と懸念の声が聞こえる。
有権者には衆院選で「自民を勝たせすぎた」という意識がある。その意識と複数のリスク要因、そしてネット選挙による向かい風の増幅効果を考えれば、安倍氏の「ネット選挙解禁で自民有利」という見立ては楽観的すぎる。
※SAPIO2013年5月号