「私は代々の在デンバー日本総領事とお付き合いしています。現職の大野さんとも、3~4回、一緒に食事していますよ」
週刊ポストの直撃に、彼は流暢な日本語でこう答えた。週刊ポスト2013年4月26日号で、北朝鮮への情報提供の疑いがあると報じた韓国人Mr.X、その人である。
2010年頃、米デンバー日本総領事館の久保和朗・総領事(当時)が韓国情報当局に近い韓国人フィクサーX氏らを公邸に招いて宴席を重ねた結果、機密情報が漏洩した疑いがある──そう産経新聞で報じられたのは3月末のことだった。それに対し、日本の外務省は「深刻な情報漏洩や不正経理はなかった」として騒動の火消しに走った。
そこで週刊ポストが現地取材を進めると、韓国人フィクサーX氏の正体について深刻な疑惑が浮上した。国防総省など米政府機関のインテリジェンス(諜報)関係者によると、X氏は韓国諜報機関の協力者であると同時に、北朝鮮への情報提供者、つまり「二重スパイ」だというのだ。国防総省関係者がいう。
「Mr.Xは複数の政治家の政治資金パーティーにたびたび出席しているが、資金の出所が不明だ。たとえば、2007年、2008年にはマイク・コフマン共和党下院議員(当時はコロラド州議会議員)のパーティーに出席。コフマン氏は党屈指のタカ派として知られ、しばしば対北朝鮮や対中国で強硬姿勢をとっている。目的はアメリカの強硬派の動向をリサーチすることだろう」
デンバーはアメリカの核戦略の重要拠点であるピーターソン空軍基地に近く、国防総省が最も神経を尖らせている都市の1つ。それだけにアメリカ側は、総領事館から機密情報が漏洩し、北朝鮮にわたったかもしれない事態を問題視して、日本の情報管理の甘さに不信感を抱いたのだ。
※週刊ポスト2013年5月3・10日号