7月の参院選からインターネットを遣った選挙運動が解禁される。経験したことのない変化を前に、永田町では期待と不安が入り交じっている。3か月後の本番に向けて対策に追われる政党や困惑する候補者、事務所スタッフらの動きを、政治評論家の有馬晴海氏が追った。
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ここ数年、支援者との会合や勉強会で、「目の前の人の話を聞かずに、机の下ばかり見ている」という若手議員が急激に増えた。こっそりスマホをいじってツイッターに投稿したり、メールを確認したりしている。まるで出来の悪い中学生が授業中にマンガを読んでいるような光景だ。
民主党政権時代には、総務大臣だった原口一博氏が予算委員会の開会時刻を過ぎてもツイッターに投稿していた。自民党の部会でも、省庁の担当者の説明を聞きながらパソコンに打ち込み、それをアップする“実況中継議員“がいる。自らの分析・見解を示すならまだしもただ速報しているだけの場合が多く、こちらは出来の悪い新聞記者の光景だ。
ネット選挙解禁となれば、選挙期間中にもこうした現象が起きる。支援者との会合や移動中の車内でスマホばかりいじる候補者が出てくることになるだろう。選挙期間中の候補者は興奮状態になる。多くの議員から「寝ている間に対立候補が支援者のところを回っているのでは、と考え出すと眠れない」といった話を聞いてきた。
ネット選挙では深夜に相手候補のアカウントを逐一チェックし、ツイッターに投稿する候補者だって出てくるだろう。17日間ある公示期間でずっとそれを続ける“ネット中毒候補者”が出てくるに違いない。また、対立候補の支援者などが匿名でネット上での中傷や落選運動を展開することも予想される。激しい中傷合戦に発展することもありえる。
ネットには、ポスターや葉書など従来の発信手段に比べてコストが断然安くなるなどメリットが数多くある。しかし、発信しただけで「やったつもり」になるリスクと隣り合わせで、その点は旧来型の選挙活動と同じである。
電話での支援依頼にしても、単にスタッフがかけるだけでは「ハイハイ」と切られるのがオチだ。相手から「お前のところの候補者は全然なってない」とクレームをつけられたりもする。重要なのはそうした苦情について逐一メモを取り、議員が事務所に寄ったところで本人に電話をさせるなど、アナログで地道な工夫だ。
※SAPIO2013年5月号