「35年前は、患者さんに“関節リウマチです”と告げると、“今後の人生、どうなるんでしょうか?”と泣くかたも多かったですね。当時はそれほど絶望視されていた病気でした」。
そう語るのは、年間約6000人の関節リウマチ患者が訪れる、東京女子医科大学の山中寿さんだ。30~50代を中心にどの年代にも発症し、患者の約8割が女性だという“関節リウマチ”について、詳しく聞いた。
「関節に慢性的な炎症が生じて変形する、免疫の病気です。本来、免疫は外からの細菌やウイルスを排除するのが役割ですが、何かの原因で関節の中の滑膜(かつまく)組織を攻撃。結果、滑膜が増殖し、骨や軟骨を溶かしてしまうのです。
また、滑膜が増殖するときに大きな痛みが伴うため、仕事や日常生活が困難になることも。さらに循環器や呼吸器の合併症も多く、命にかかわることもある病気であることがわかってきています」(山中さん)
関節リウマチは、1960年代には本格的な治療薬はほとんどなかった。1980年代以降、薬で痛みをコントロールできるようになったものの積極的な治療法はなく、手術をして人工関節にするか、寝たきりという状況も多かったという。しかし、この10年ほどで治療が目覚ましく進歩した。
「現在の治療の主な目的は、疾患の活動性が完全に抑えられ、これ以上進行しない“寛解(かんかい)”といわれる状態にすることです。残念ながら病気の根本原因が未解明のため治癒は難しいのですが、痛みなどの症状を緩和すると同時に、生活に不自由のない状態が維持できるよう治療していきます。
このような治療が出来るようになったのは、最先端のバイオテクノロジーによって生まれた、生物学的製剤の登場が大きい。この薬はリウマチの進行を抑え、破壊された骨軟骨を修復するなどの効果も報告されています。今年に入ってからも、効果がより早く長く続き、アレルギーも起きにくいと期待できる“PEG化製剤”が登場するなど、日進月歩です。
生物学的製剤の登場により、人工関節の手術も大幅に減りました。また、2000年には寛解患者約10%、重症患者約20%だったのが、2012年には寛解が約40%、重症患者約5%(*IORRA調べ)に。薬剤によるここまでの改善は、世界的に見ても画期的です」(山中さん)
生物学的製剤は、症状などに応じて主治医の判断で使用されるが、PEG化製剤の登場などで、ますます明るい結果を目指せるのは大きな成果だ。
積極的に治療ができるようになった現在、初期の段階で進行を食い止めるために、一刻も早く治療を始めることが大切だという。
「関節リウマチは専門性の高い病気なので、簡単には診断は下せません。問診、血液や関節液を採取しての検査、レントゲン検査などを経て、総合的に下されます。気になる症状があったら、できるだけ早く専門医を受診してください」(山中さん)
最後に、意外に知らない病気“関節リウマチ”にあらわれる症状を紹介しよう。
典型的な症状は、朝起きたときの関節のこばわりや痛みがあげられる。また両手首、両ひざ、親指の付け根が両手とも、といったように左右対称の関節が痛くなる、腫れたり、熱をもったりするのも特徴。背骨を除く全身の関節に発症するが、よく動かす手指や手首には出やすい。
気をつけなければならないのは、“起床時のこわばり”は、動いていると治ってしまうのが初期の特徴だということ。市販の湿布薬でごまかしているうちに、病状が進行すると痛む時間が長くなる。別の病気が原因のこともあるので、適切な診察を受けてほしい。
そして、貧血や全身の倦怠感、ひじ・ひざなどの関節の外側やアキレス腱、後頭部などに痛みのないしこりができることも。
とはいえ、素人判断は禁物。気になったら、専門医がいる“リウマチ科”を標榜するクリニックか、専門科を設けている内科や整形外科を受診しよう。