朝鮮半島を巡る緊張がいまだ止まぬなか、日米の防衛上の緊密な連携は不可欠といえる。しかしわが国の機密管理は、米国から不信感を抱かれるほどに、杜撰極まりないものとなっている。
4月1日付で防衛事務次官に就任した西正典氏が私的に使用していたGメールのメールアドレスから、多数の関係者に向けて、ウイルスに感染したと見られる不審なメールが送られたのである。
これほど深刻な事態であるにもかかわらず、当の西氏本人の対応は能天気なものだ。アドレスから発信された不審メールに気づいた西氏からの“おわびメール”である。ハッキング騒動が発生した3月29日の翌日に西氏本人が送ったものだ。
<各位 昨日私のところから不審なメールを受け取られたことと存じます。これは、何者かに私のメールがハイジャックされたことが原因で、添付ファイルにウィルスが仕込まれております。
まだ開封されていない方は、直ちに破棄してください。もし不幸にして開封されてしまった方は、恐縮ですがアンチウィルスプログラムでスキャンしてくださるようにお願いします。ご迷惑おかけして、大変申し訳ありませんでした。西正典>
「開いた口がふさがらないが、西氏はこのおわびメールを、ハッキングされたのと同じGメールのアドレスから送っていた。本人は“自宅のパソコンからではなく、スマホから送信したので問題ない”と話しているようだが……。メールを受け取ったほうからしてみれば、信じられない話だ。新防衛次官がこれほどまでに危機管理が甘いとは……」(防衛省関係者)
防衛関係者ならずとも「一体何を考えているのか」と呆れるほかはない。軍事評論家の佐々木俊夫氏がいう。
「防衛省職員に公的に与えられているメールアドレスを使ったやりとりは、その中身がすべて防衛省に記録されている。そのため、多くの職員は、公的なアドレスとは別に自分個人のアドレスをよそで取得して、個人的な用件だけでなく一部の仕事のやりとりにもそれを使っているという実態がある」
しかし、次官ともあろう人物の対応としては、甘すぎると批判されてもしかたがない。この一件は防衛省の外部からも問題視されている。
「今回の件で米国サイドも日本に対する不信感をより深めている」と証言するのは、ある公安関係者である。
「3月29日の不審メールは、アメリカ大使館関係者にも送られていたようだ。同大使館のパソコン29台がこのメールを受信し、警告のアラートを発したという。アメリカ当局はこのメールを解析し、中国・瀋陽に拠点を置く北朝鮮系勢力が関与したものとの疑いを強めている。3月には、韓国でも放送局や銀行が北朝鮮の偵察総局によるものと見られる大規模なハッキングを受けている」
●取材・文/時任兼作と本誌取材班