国内で景気回復の期待感だけは高まったアベノミクス。一方で、中国における負の影響は目に見えてきている。ジャーナリスト・富坂聰氏がレポートする。
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どうやらアベノミクスは、これまで絶好調だった中国経済の失速に決定的な役割を果たしたようだ。
4月末の中国メディアは、中国のPMI(製造業購買担当者景気指数)が低下したことを一斉に報じている。景況感の指標ともされるPMIの低下は、需要の弱まりを示しているとされ、なかでも輸出の新規受注を記す数字が昨年12月以来初めて下がったことも話題となった。
このことは外需の不振が製造業の回復の足を引っ張っていることを裏付けた結果として受け止められているのだ。
では、なぜ外需が不振かといえば、もちろん最大の輸出先であったEUの消費が欧州金融危機によって陰ったままであることが挙げられるが、最近ではもっぱら人民元レートの問題と結びつけて語られるようになっているのだ。
4月10日付の『新京報』は、〈6か月の間に対日本円レートが20%も切り上がった〉として、これが〈中国の輸出とインフレという二つの意味でプレッシャーになっている〉と分析した記事を載せている。
アベノミクスの金融緩和によってつくり出された円安によって韓国経済が大きな打撃を受けたことは広く知られているが、やはり中国の輸出にも大きな影響が及ぶことになったのである。
それと同時に中国によって重要なのはインフレへの影響だ。中国の為替政策は、管理フロートと呼ばれるもので変動幅を一定の範囲内に収めるという手法だ。問題は、為替相場を管理することは、市場にある元高圧力と戦うことでもある。つまり、円買いと元売りを行うことになるため、どうしても元が市場にあふれてしまうことになる。
もしインフレを放置すれば中国政府としては最も警戒しなくてはならない貧困層の生活を直撃することになるという政治的なリスクにとどまらず、中国経済にとっていまや最大のけん引力になっている公共事業を行うことも躊躇われるという二重苦に陥ってしまうのである。
結果、中国は元安を維持しながら輸出で稼ぐという一つの太い柱を諦めざるを得なくなってきているのだ。