「総理が7月に衆参ダブル選挙を打つ可能性がある」
政権最高幹部の1人のオフレコ発言の衝撃が連休明けの与党内を波立たせている。
ある自民党ベテラン代議士は、昨年末の総選挙時に借りた選挙事務所を今もそのまま残している。
「通常国会会期末の6月まではダブルに備えておく必要があるから、契約を解除せずにいつでも選挙態勢が組めるようにしている」と、臨戦モードなのだ。
自民党内では「電撃戦」のオプションが用意されているという。今年7月の参院選に合わせた衆参ダブル選挙である。
自民党が大勝した総選挙をやり直すことなどありえないように思えるが、「憲法96条改正」を打ち出した安倍首相にとって、今の衆議院のままでは改正の議論どころか発議さえできないという手足を縛られた状況にある。
安倍晋三首相を長く取材し、政府の規制改革会議委員も務める長谷川幸洋・東京新聞論説副主幹がこう指摘する。
「1票の格差訴訟で各地の高裁がそろって昨年の総選挙は違憲、もしくは違憲状態だという判決を出した。この状況では憲法改正の発議をしようとしても、違憲選挙で選ばれた国会議員には改正案を採決する正当性がない。安倍総理はおそらく判決を非常に厳しく受け止めているだろう。
理論的には、憲法改正を発議するためには、衆院の定数を是正したうえで、すみやかに解散・総選挙をして国会議員を選び直し、国会の法的正当性を取り戻さなければならない」
安倍首相は大型連休前、解散を視野に重要な布石を打った。野党が反対する中、衆院議院運営委員会に強く指示して違憲状態の是正に最低限必要とされる衆院定数の「0増5減」の新区割り案を4月23日に衆院で可決させたのだ。
与野党ねじれ状態の参院では可決のメドが立っていないが、日程的には「60日ルール」(※注)によって国会会期末前の6月21日に衆院の3分の2の再可決で成立させることができる。
そのうえで首相が解散して衆参ダブル選挙を打てば、総選挙は定数是正後の新たな区割りで実施され、違憲状態を解消して、晴れて憲法改正の発議に取り組むことができる。96条改正への短期決戦シナリオである。
このシナリオを裏付けるかのように、安倍首相は5月1日の外遊先での内政記者懇でダブル選挙について、「適切な時期をとらえて解散する」と、思わせぶりな言い方をした。
【※注】「衆議院の優越」規定の1つで、衆議院が可決した法律案を参議院が60日以内に議決せず、これを否決したものと衆議院がみなした場合には、衆議院による再議決で成立させることができる。
※週刊ポスト2013年5月24日号