株価の急上昇などでその手腕を評価される安倍首相だが、大企業の設備投資計画が予想を下回るなど、アベノミクスに懐疑的なデータも出始めている。今、安倍氏にはどんな国家ビジョンが必要なのか? 大前研一氏が解説する。
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残念ながら安倍政権を見ていると、日本をどういう国にするかという確たる構想も、目の前の痛みを受け入れる勇気も覚悟も見受けられない。4月中旬には3大都市圏で外国人人材の受け入れを緩和するなどの「アベノミクス戦略特区」を創設する方針を打ち出したが、この程度の規制「緩和」ではまだまだ小粒であり、不十分だ。規制は「撤廃」するくらいでなければ新しい産業が生まれてくることはない。
企業も、今の日本は海外に比べるとスピードとスケールに欠けている。サムスンの李健煕会長や鴻海グループの郭台銘会長ら、韓国、台湾、シンガポール、中国などの経営者は、1000億円規模の投資をディナー1回で決める。
昔は日本にもパナソニック創業者の松下幸之助氏、ソニー創業者の盛田昭夫氏、ヤマハの「中興の祖」と呼ばれヤマハ発動機創業者でもある川上源一氏ら、1人で大胆な意思決定のできる経営者がいた。が、今や日本の大企業はサラリーマン社長ばかりになり、そういうスピードやスケールの意思決定ができる経営者は極めて少なくなってしまった。
どうも日本は政治、経済、社会すべての領域で「引きこもり」症状が悪化しているように見える。アベノミクスも自国民の税金を使って財政出動したり、日銀と銀行の間で国債とキャッシュをやり取りしてコップの中の水をグルグルかき回したりしているだけでは、実体経済が上向いて景気が良くなることはない。
政府が数多く設置した会議の提案では、豪華な幕の内弁当のように“改革”の項目が羅列されているが、改革は1つに集中するくらいでなくてはうまくいかない。2つあれば、「時間軸」をずらして進めるべきである。
“引きこもり国家”に繁栄は訪れない。世界からヒト、カネ、企業、情報を呼び込まない限り、景気回復も経済再生も実現しないのである。そのポイントは、地方が世界から繁栄を呼び込む競争を開始する仕掛けとしての道州制だ。憲法改正の焦点は9条でも96条でもない。第8章(地方自治)を書き直し、中央政府から地方政府に主導権を渡すことだ。安倍首相は、それを肝に銘じてほしい。
※SAPIO2013年6月号