巨大な首都直下地震が起きれば、東京都内では震度7の揺れが襲うといわれる。住宅購入者は、建物の免震構造のほか、地下をはしる活断層についての関心も高い。だが、住宅の耐震性ばかりに注目していては、重要なことを見落としかねない。立命館大学歴史都市防災研究センター・高橋学教授が指摘する。
「地震の揺れは地盤に大きく左右されます。まずは建物が建つ地盤そのものの固さを知っておく必要があるのです」
地盤の硬軟と揺れの相関を知らしめたのは東日本大震災だった。震源地から離れた関東では局地的に大きな震度を記録する地域が出現した。これら地域の地盤は周囲に比べて軟らかかったとされる。
また、武蔵野学院大学の島村英紀特任教授(地震学)も続ける。
「東日本大震災の際、千葉県柏市の100軒近い住宅で液状化が発生しました。東北の津波被害や浦安市の大規模な液状化の陰にかくれてほとんど報道されていませんが、海に面していない千葉県北西部で液状化現象が起こったのは注目に値する。実は、これらの住宅が建てられていたのは、ほとんどが『N値』の低い軟弱地盤だったのです」
N値とは、地盤の固さを測定する標準貫入試験「ボーリング調査」によって得られる数値だ。重さ63.5キロのハンマーを約76センチ落下させ、鉄製の杭が地盤に30センチ打ち込まれるのに要する打撃回数を示す。例えば、N値5だとすれば、ハンマーを5回落下させることで、ようやく杭が30センチ打ち込まれることになる。
このN値がゼロを記録するエリアが、「3・11」後、地震学者や土木関係者らの間で注視されている。前出の高橋教授が再び解説する。
「N値がゼロということはハンマー打ちをせずとも、杭自体の重さで30センチにまで達する地盤であるということです。これは埋め立て地など一部の軟弱な地盤だけの話ではない。日本の大都市圏には、N値ゼロの土地が非常に多いのです」
一般的に「軟弱地盤」とはN値が15以下のものと定義される。それを大きく下回るN値ゼロの土地が東京や名古屋、大阪などの大都市圏に広がっているという。
「この地盤は例えるならば、プリンや豆腐のようなものです。その上に建っている建物は規模が小さな地震でも大きく揺れる。もちろん激しい地震なら大きな被害も予想されます」(高橋教授)
※週刊ポスト2013年5月24日号