本誌名物企画の覆面官僚座談会。今回は安倍政権が本腰を入れる道州制の問題について、財務省中堅官僚A氏、経産省中堅官僚B氏、総務省ベテラン官僚のC氏、厚労省若手のD氏の4人の官僚が語り合った。(司会・レポート/武冨薫)
──思い切って中央の権限を地方に移譲して地方分権で日本を立て直すしかない。
総務C:政治家もマスコミも道州制を導入すれば経済は活性化し、この国は再生すると根拠なく思い込んでいる。それこそ幻想の最たるものだ。(財務Aと厚労Dもうなずく)
総務C:現在47都道府県の知事のうち中央官庁の官僚OBは29人を占める。わが省出身は12人、経産が9人。戦前の官選知事の時代じゃあるまいし、なぜ、こんなに多いのか。それは地方の方が中央とのパイプを求め、人材を欲しがる結果そうなっている。
──なぜ、道州制では地方は活性化しないというのか。
総務C:北海道を見てみればいい。道州制への移行モデルとして「道州制特区」に指定されているが、経済の自立はなかなか難しい。
経産B:うちのOBの知事を弁護すれば、道州制モデルというならせめて道庁と国交省の北海道開発局を統合するくらいのことをやらないと分権とはいえないでしょう。しかし、実際に道庁に移譲された権限は、札幌医大の定員を決める権限と、調理師学校の指定権限、それに鳥獣狩猟の許可と二級河川の整備の権限くらい。二級河川の管理・整備はもともと都道府県の所管じゃないか。
総務C:私がいいたいのは地方が本当に分権を望んでいるのかということ。道庁にはどんな権限を欲しいかどんどんいってきてくれといっているのに、それくらいしか要望がない。
財務A:道州制でもっと議論されるべきは財源問題だと思う。地方の首長には、「分権すると補助金や交付金が増えるから進めたい」と、平気でいう人がいる。それは全く逆だ。いまは国が借金して地方の財源まで補填している。道州制を敷いて大幅な権限を移譲するなら、政策的経費は地方が増税して賄うべきでしょう。
もっといえば、地方のために使った国の借金も肩代わりしていただきたい。しかし、そうなれば、道州制が施行された途端、税収が豊富な東京(関東州)など一部を除いてほとんどの道州は大増税から始めなければならなくなる。
総務D:政治家がその肝心な部分を避けてバラ色の道州制のイメージを国民に見せているのは、財源と借金の分配問題をテーブルに載せた途端に自治体側はひっくり返って収拾がつかなくなるとわかっているからだ。ということは、安倍政権も野党も道州制といいながら地方政府をつくるような大胆な分権など最初から想定していないということだろう。
※週刊ポスト2013年5月24日号