近ごろ、日本は“うつ”の人が増えているといわれる。うつ病患者ではないけれど、うつの傾向があると感じる人へ向けて、諏訪中央病院名誉院長で『がんばらない』著者の鎌田實氏が、新刊『がまんしなくていい』(集英社)から、自分でできる幸せホルモンの出し方を解説する。
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現在、日本には約100万人のうつ病患者がいるといわれている。うつうつとした傾向にある人は、10人に1人の割合だ。あなたの職場にも、この割合でうつ傾向の人がいる可能性がある。
社会にうつ傾向が広がると、経済が停滞しがちだ。国民みんなが少しだけそう状態になったほうが、資本主義経済は、良い回転をするのである。
もちろん、うつ病でない人は、薬を飲む必要はない。自分でちょっとだけ努力すれば、脳内にセロトニン(「喜びホルモン」や「癒しのホルモン」などと呼ばれる感動したり、美味しいものを食べたりしたときに、分泌される神経伝達物質)を出せるようになるからだ。
セロトニンという物質を構成しているのは、必須アミノ酸のなかのトリプトファン。これはチーズや赤身の魚肉に含まれている。こういうものを食べ、小さな感動をすると、脳内にセロトニンが分泌されやすくなるといわれている。
お父さんが子どもと一緒に夕日を見て、「きれいな夕日だなあ~」と繰り返し感動を伝えると、子どももセロトニンを分泌しやすい傾向になる。
ウォーミングアップが大切なのだ。
こういう習慣を継続的に続けていけば、子どもは感性豊かな子に育つだろう。こんな人は、うつにはなりにくい。
一方で、セロトニンが足りなくなると、過食症になったり、アルコール依存症になったり、セックス依存症になったりしやすいといわれている。セロトニンは満足感とか幸福感と密接に関係しているからである。
もう一つの幸せホルモンは他人を幸せにするときに、分泌されるオキシトシン。
オキシトシンは、これまで子宮を収縮させ、乳汁を分泌させたりする、女性だけに関係するホルモンと思われていた。しかし男性にも、中高年の女性にも、相手の身になって親切な行為をすると、このオキシトシンが出ることが分かった。「情け」は自分のためにもなるというわけだ。
しかもストレスを緩和し、感染症を予防し、生きる力を与えてくれるといわれている。
アメリカ・オレゴン州のコンコルディア大学の研究によると、オキシトシンは信頼性や開放性や外向性や利他性を高めるという報告もある。
子宮を収縮させる効果があり、産科領域で使用するために、すでにオキシトシンは注射やスプレーの形状になっている。いま、この幸せホルモンは、いろいろな領域で注目されているのだ。
●鎌田實(かまた・みのる)/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。ベストセラー『がんばらない』、新刊『がまんしなくていい』(集英社)ほか著書多数。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。
※週刊ポスト2013年5月24日号