1985年に放送後、何度も再放送され国民的な人気を誇る不朽の名作『タッチ』。その主人公・上杉達也を演じた声優・三ツ矢雄二さん(58才)とヒロイン・浅倉南を演じた声優・日高のり子さん(50才)が“アニメ”と“声優”について語り合った。
三ツ矢:『タッチ』(1985年)の制作発表の記者会見が、日高さんとは初対面でしたね。タッチが終わった後もふたりでやっていたラジオのパーソナリティーは、7年ぐらい続いたから、週に1回は会っていたよね。今では事務所も一緒で家族ぐるみのつきあいです。家族といっても私はひとりですが(笑い)。
日高:あはははは。
三ツ矢:のりちゃんは浅倉南オーディションで選ばれたので、制作サイドが求めていた声だったと思います。でも、スタッフには元アイドルの日高のり子が南ちゃん役なので、面倒を見てほしいと言われましたね。
日高:まだ、声優としての経験が浅かったのでガチガチに緊張していました。三ツ矢さんには南として生きるというアドバイスをもらいました。演じるというより、自分がその立場ならどうするか、どんな声が出るのか。だから、うまくいくときとダメなときの差が激しかったですね。
三ツ矢:新人なので監督さんが求めているものがわからなくなっちゃうみたい。ぼくもセリフ合わせをつきあっていたときに“もっとちゃんとタッちゃんを愛して!”なんて言ったり(笑い)。そういう意味では手間のかかった新人でした!(笑い)
日高:みなさんに手間暇かけていただいて。
三ツ矢:アニメというと子供向けというイメージがあったと思いますが、タッチはサラリーマン世代も見ていた。そして普通のドラマのようなナチュラルなセリフを求められました。普通、アニメは誇張して演じることが多いですけど、それは一切なし。とにかくリアルに演じてくれと。見ている側はドラマや映画を見ているような感覚だったんじゃないかな。アニメーションのひとつの新時代を築いた作品だと思います。
日高:みなさんに鍛えられたおかげで、声優としてひとり立ちできましたが、その後に演じた『となりのトトロ』(1988年)のサツキ役はそれでも緊張しましたね。ジブリ作品にはずっと出たいと思っていて、オーディションに合格したときはものすごくうれしかった。でも、台本と一緒にいただいたビデオを見て、あまりの絵の美しさにびっくり。
当時のアニメは絵もお芝居しているけれど、声を入れることによって補い合える部分があった。でもトトロは本当に動きがなめらかで、子供の動きも実際に公園で遊んでいる子供たちそのもの。風がそよいで草木が動くような背景を含め、音が入っていないのに人の息づかいとか、吹いている風を感じられる映像だったんです。ものすごく驚いて、声を入れることで逆に足を引っ張ったらどうしよう、というプレッシャーを初めて感じた作品です。
※女性セブン2013年5月30日号