中国の富の70%は上位0.4%の富裕層が握っている。その富が、どんどん国外へ流出中だ。富裕層はどれだけの富をどのように持ち出そうとしているのか。国内外の金融事情に精通する投資銀行家で人気ブロガーの「ぐっちーさん」こと山口正洋氏が解説する。
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2011年に発表された「中国個人財産管理白書」によると、資産1000万元(約1億5000万円)以上の富裕層のうち、すでに14%が海外に移民申請中で46%が申請準備中だという。つまり中国の億万長者の60%が海外脱出を計画しているのだ。
この1000万元以上の資産家の数は約96万人。平均資産は6000万元(約9億円)に達する。そのうちの60%(約60万人)が海外移住を検討しているということは、中国から流出する資産は単純計算で36兆元、日本円にして約540兆円になる。日本のGDP(国内総生産)をも上回る規模だ。
中国では、1950年代後半に食糧問題改善のために農民を増やす大躍進政策が取られたが失敗し、4500万人が餓死する事態を招いた。さらに1966年から始まった文化大革命では1000万人以上のインテリ層が排除され、その富を奪われた(全体の犠牲者は3000万人以上とも言われる)。このように国家に一方的に富を収奪される記憶が刻み込まれているため、富裕層は国家を信じていない。
そんな彼らが海外に資産を逃がす手口は多種多様だ。正攻法は「投資移民」である。簡単に言えば移住先の国にカネを積んで国籍を取得する方法で、例えばカナダでは約1億円の資産を持ち、5年間で約6000万円の州債券を購入するといった投資をすれば永住権とパスポートが得られる。この方法では医療費や子供の教育費が高校生まで無料となるため、富裕層には安い買い物と言えるだろう。
投資移民を認める制度は米国やオーストラリア、シンガポールなどにもある。ただ、米国ではオバマ政権が移民政策を厳しくしたこともあり、今は中国の資産家の間ではカナダが一番人気と聞く。カナダでは投資移民政策による中国マネーが経済を支えているという側面もあるようだ。
※SAPIO2013年6月号