50代のサラリーマンが集まれば、繰り広げられるのは部下の愚痴か病気自慢というのが相場である。この日も都内の居酒屋にはお馴染みの光景があった。
「健康診断で尿酸値がやばくてさあ~」
「俺、痛風だからビールは止めとくよ」
そんな時、ウーロン茶をちびちび飲む同僚を尻目に、豪快にジョッキでビールをあおるAさんがニヤリとしていった。
「飲んでもいいらしいよ」
痛風患者にとってビールはご法度なはず。同僚たちが「えっ!?」と驚いたのはいうまでもない。
Aさんは、医学の常識が最近、変わってきたことを知っていたのだ。
『ビールを飲んで痛風を治す!』(角川書店刊)の著者、元昭和薬科大学教授で、現在は病態科学研究所の田代眞一所長(医学博士)が豪語する。
「30歳で痛風の発作が起きました。それでも、毎日3リットルのビールを飲み続けたら、通常2週間は続く発作が4日で治まりました。それ以降も同じように飲み続けていますが、今でも痛風の発作は一切ありません」
田代氏の主張はこうだ。ビールは他の酒に比べて、アルコール度が低く、水分量が多い。そのため、ビールは尿を大量に作って、体内の尿酸を洗い流す道具になるというのだ。
「ビール好きが痛風の発作を起こしたからといって、ビールを諦める必要はまったくない。むしろ、治療に利用すべきだと思います」(田代氏)
痛風は、血液中の尿酸濃度が高くなって結晶化した尿酸が、関節で潤滑油の役割を果たす関節液に入り込むと、白血球がそれを異物と見なして攻撃するため、炎症や腫れ、痛みを引き起こす病気である。文字通り「風が当たるだけでも痛い」といわれるほどの激痛が伴うことでも知られている。
痛風の原因となる尿酸は、飲食物に含まれる「プリン体」から生み出される。プリン体は、遺伝子の本体である核酸の主成分で、筋肉を動かすエネルギー伝達物質のもととなる生命維持に欠かせない物質だ。このプリン体が分解されて出る老廃物が尿酸である。
健康診断などでも目にする尿酸値が7.0mg/dl以上になると『高尿酸血症』とされ、この状態が数年以上続くと痛風の発作が起きるとされている。このため、一般的には、7.0mg/dlを治療のガイドラインに定め、食事指導や経過観察が行なわれる。
田代氏が語る。
「日本人の場合、尿酸の排出機能が低下するケースが多く、いかに尿酸を体外に出すかが問題となっている。ビールには利尿作用があるので、ビールをどんどん飲んで、余分な尿酸を体外に出せばいいというのが、私の考え。もちろん、ビールでなければ痛風が治らないというわけではありませんが、ビールを含めた水分を摂ることが重要なのです」
現在、60歳を超えた田代氏の尿酸値は5.8mg/dlで、正常値に収まっているという。
※週刊ポスト2013年6月7日号