国内

禁煙者にボーナス出す会社 マネジメントに問題ありと専門家

リーマンショックによる世界不況や東日本大震災を経て、日本人の働き方に対する意識は大きく様変わりしている。

短時間で「能率・効率」を上げることだけを求められてきた時代から、「効果・貢献」といった一定の成果さえ得られれば、勤務スタイルは社員の多様性を認める時代へ――。ワーク・ライフ・バランスの重要性が叫ばれているのは、その象徴ともいえる。

 ところが、多くのの企業はいまだに「就労時間の長さや休憩・休暇の取りづらさ」といったタイムマネジメントの強化こそが成果に結びつくと信じて疑わない。

かたや造反の槍玉に挙げられている一例が、喫煙者の一服タイムが生産性を損ねているという理論だ。経済アナリストの森永卓郎氏が呆れ顔でいう。

「タバコを吸う人の休憩時間をわざわざ1日カウントしてその時給分を差し引こうとか、逆に非喫煙者のボーナスを加算しようとか、仕事の成果をまったく無視した差別がまかり通っている風潮は理解に苦しみます。最近では企業や自治体でタバコを吸う人をそもそも採用しないという流れにまでなっています。その方針を決定したトップは、自分が被害を受けなくても、自分たちと違うスタイルが許せないだけ。独裁者に近いと思います」

「経営学の巨人」として名高いピーター・ドラッカーは、著書『マネジメント』の中でこんな自説を唱えている。

<雇用主たる組織には、人の性格をとやかくいう資格はない。雇用関係は特定の成果を要求する契約にすぎない。他のことは何も要求しない。それ以外のいかなる試みも、人権の侵害である。プライバシーに対する不当かつ不法な侵害である。権力の濫用である。被用者は、忠誠、愛情、行動様式について何も要求されない。要求されるのは成果だけである>

 日本におけるドラッカー活用のスペシャリストで、近著に『48の成功事例で読み解くドラッカーのイノベーション』(すばる舎刊)がある経営コンサルタントの藤屋伸二氏もこう指摘する。

「ドラッカーは『誰が正しいかではなく、何が正しいかで判断しなさい』と言っています。もし、経営理念・経営方針・行動規範・就業規則、価値への取り組みなどで禁煙を謳っているのであれば、禁煙を採用条件にしたりボーナスを出したりすることも正しいかもしれません。しかし、そのような記述がなく、社長が言っていることに反応しているだけであれば、『誰が正しいか』に基づいての決定であり、それは間違っています」

 断わっておくが、藤屋氏は歴とした“嫌煙派”だ。人への配慮やルールを守っての喫煙を大前提としながらも、こう続ける。

「企業は道徳的にも、倫理的にも、もちろん法律的にも問題のない喫煙は認めるべき。喫煙者かどうかよりも、能力の有無に優先順位を置くべきなのです。ドラッカーも『現代の経営』の中で、<企業が働く人に対して第一に要求すべきは企業の目標に進んで貢献することである>と言っています」

 前出の森永氏は、少数派といえども喫煙者をすべて排除しようとする組織のマネジメント手法は、自らの首を絞めかねないと警鐘を鳴らす。

「喫煙者を規制することによって、結果的に組織全体のパフォーマンスは落ちていくと思います。ときにクリエイティブな発想が湧いたり、他部署の人たちとの情報交換ができたりする休息時間そのものが管理されれば、精神の自由が失われる危険があるからです。そうなれば、ギスギスした人間関係が芽生え、いつまで経っても効率一辺倒で成果の上がらない時代から抜け出せません」

 社員の趣味嗜好にいちいち目くじらを立てているような組織では、ワーク・ライフ・バランスの根幹を成す仕事のやりがいや充実感など持てるはずがないだろう。

関連キーワード

関連記事

トピックス

10月1日、ススキノ事件の第4回公判が行われた(ドールの画像はイメージです)
《100体以上の高級ドールとハイター》父・田村修被告が明かした瑠奈被告の“優しさエピソード”【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
上脇教授が指摘 責任が重い「裏金議員」
【解散・総選挙へ】自民党“裏金問題”議員をリストアップ 「トカゲの尻尾切りで責任を免れた派閥会長」「知らぬ存ぜぬで逃れた安倍派幹部たち」
週刊ポスト
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
「ベロチューですね」「4〜5回やった」父・修被告が明かした田村瑠奈被告の“被害男性との初体験”【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
音信不通の状態となっている女優の渋谷琴乃さん
《元気でやっています》10年以上女優活動ない渋谷琴乃さんの現在、関係者の一報で「映像権利会社の音信不通リストから名前削除」
NEWSポストセブン
抗日の英雄について語り合うやり取りも
習近平体制になってますます強化された中国国内の「反日教育」 最新歴史教科書では日本を「敵」と形容する場合もあり、情緒的な表現も目立つ
週刊ポスト
眞栄田郷敦
《兄とのW結婚から2年と経たず》眞栄田郷敦がスピード離婚!役者への強い思いからくる“ストイックさ”が原因か
女性セブン
10月1日、ススキノ事件の第4回公判が行われた
《復讐するため…》ススキノ事件・瑠奈被告(30)は被害者男性を「鹿」と呼んでクラブへ探しに “謎LINE”の意味が判明【ススキノ事件・第4回公判】
NEWSポストセブン
音信不通の状態となっている女優の渋谷琴乃さん
《消えた人気女優が音信不通リスト入り》“第2の宮沢りえ”と騒がれた渋谷琴乃「連絡が取れない」映像権利会社が捜索中
NEWSポストセブン
NHK・中山果奈アナ(HPより)
《NHK次期エースとして人気沸騰中》中山果奈アナが結婚! お相手は「大手メディア勤務」パリ五輪で見せていた「2人きりの食事デート」
NEWSポストセブン
コンサートのスタッフに丁寧に挨拶をして会場を後にした木村と
木村拓哉、Koki,とのバイク2人乗りデートをキャッチ ハーレーで工藤静香のコンサートに駆けつける、会場ではノリノリでリズムを取る姿も
女性セブン
“平成の大横綱”貴乃花光司氏は令和の大相撲をどう見ているのか
【独占インタビュー】貴乃花光司氏が語る“横綱論”「大関と比べて求められる辛抱強さが20倍も30倍も違う」、そして“今の大の里に足りないもの”は何か
週刊ポスト
アイドルの戦慄かなのと逮捕された人気YouTuberの“DJまる”こと松尾竜之介容疑者
《戦慄かなのと交際》暴行容疑で逮捕されたDJまる「顔が腫れるまで殴ったり…」レペゼン脱退後に抱えていた多くの悩み「フォトブック不発」「酒癖悪い」
NEWSポストセブン