1990年代より浮かんでは消えてきた「カジノ特区」の合法化が、いよいよ現実味を帯びている。超党派の国会議員から成る通称・カジノ議連(国際観光産業振興議員連盟)の総会を受け、政府も「成長戦略」の目玉として、カジノ解禁に前向きな姿勢を取る。
6月3日には東京都の猪瀬直樹知事が、「東京を訪れる外国人観光客を増やすため、レストランや劇場、カジノを一体とした統合型リゾート施設(IR)の整備を検討したい」と述べ、お台場を中心とする臨海副都心地区でのカジノ構想を膨らませた。
そうした機運が盛り上がるにつれ、株式市場では早くもカジノ関連銘柄を物色する動きが出てきた。
『マネーポスト』(2013年夏号)では、カブ知恵代表の藤井英敏氏がメダル計数機最大手の【オーイズミ】、お台場で実現なら事業体に食い込むであろう【フジ・メディア・ホールディングス】、本場米国カジノで紙幣鑑別の実績がある【日本金銭機械】などの銘柄を推奨している。
その他、日本でのカジノ事業を新たな収益源として“一山当てよう”と目論む企業は数多い。ゲームメーカーの【コナミ】、パチンコ・パチスロメーカーの【アルゼ】、監視カメラで【ソニー】までもが名乗りを上げようとしている。
しかし、カードやルーレットゲームが特徴的なカジノにもかかわらず、不思議なことにそのジャンルでは有数の、あの企業名がまったく取り沙汰されてこない。花札、トランプ、かるた販売を「祖業」に、総合ゲームメーカーへと成長した【任天堂】である。一体、なぜなのか。
エース経済研究所アナリストの安田秀樹氏が解説する。
「任天堂はもともとカードゲームとの相性はよく、強力なコンテンツも持っているので、カジノもやれば儲けられる自信はあるでしょう。でも、いくら合法化されても賭博ビジネスに進出すれば必ず規制の対象となり、自由なゲーム作りができなくなるので、敢えて避けているのです。パチンコに関しても自社の版権で稼ぐビジネスは一切していませんからね」
参入する気がまったくないから、名前も挙がらないというわけだ。これは同社の「中興の祖」である山内溥氏の社長時代から脈々と受け継がれる、いわば“経営理念”でもある。安田氏が続ける。
「任天堂は長らくゲーム機人口の拡大を戦略目標にしているので、ターゲットは子供からお年寄りまで。カジノともなると20歳以上で、ある程度所得がある人に限られてしまうため、戦略目標に反してしまうのです。そもそも、賭博性が高く、射幸心を煽るようなゲームは自主規制で出さないのが任天堂のポリシー。ソーシャルゲームにおけるアイテム課金のガチャにも否定的な姿勢を貫いています」
その一方で、「いつまでもビジネスジャンルを選り好みしていられないはず」(ゲーム業界関係者)と揶揄されるほど、任天堂の足元の業績は悪い。2013年3月期で364億円の営業赤字を出したうえに、昨年11月に満を持して発売した家庭用ゲーム機『Wii U』(Wii後継機)の売れ行きが芳しくない。
「Wii Uはスペックを上げ過ぎて、開発費と原価の逆ザヤが収益悪化のネックになっています。1台売るごとに1万円以上の赤字を出しているのです。それでも岩田聡社長はソフトの販売でカバーし、2014年度は1000億円の黒字転換を“公約”しました。これを実現するには、為替による増益効果もなければ厳しい。何よりもゲーム機は一度コケれば経営体制を立て直すのに、ものすごい労力が必要になるため、いまが正念場といえます」(安田氏)
仮に公約も達成できずに、さらに経営悪化に陥れば、「背に腹はかえられぬ」とばかりに、カジノビジネスに手を染める選択肢も出てくるのだろうか。