輸出依存度(純輸出のGDPに占める割合)が50%を超える韓国経済は、アベノミクスによる円安・ウォン高で急速に傾いている。政府高官が「円安は北朝鮮リスクよりも脅威」と口にするように、もはやギブアップ寸前だという。日本総研上席主任研究員の向山英彦氏が解説する。
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韓国では8四半期連続で実質GDP成長率(前期比)が1%を下回るなど、景気が低迷している。今年1~3月期には、2012年に始まった減税効果の反動で消費がマイナスとなった。
最近の問題は成長のエンジンである輸出の回復力が弱いことである。中国を含む新興国の成長減速に、円安・ウォン高の影響が加わった。日本向けは前年水準を大幅に割り込んでいる。
株価も低迷。今年に入って日経平均が高値更新を繰り返してきたのとは対照的に、韓国総合株価指数はいまだ昨年末の水準を下回っている。
こうした窮状を韓国メディアは、「日本が通貨安戦争を仕掛けてきた!」「急速なウォン高で韓国経済が大打撃を受ける」とアベノミクスを非難する論調で報じている。
確かに直近の韓国経済の失速には円安・ウォン高が影響しているが、問題は為替だけではない。好調に見えていた時期においても、韓国経済は構造的な問題を抱えていたのである。それが、世界経済の低迷やアベノミクスなどの要因で顕在化しただけで、こうなることはある意味予想されたものであったというのが私の見方である。
1997年の通貨危機後、韓国ではリストラなどの構造改革が加速。非正規社員が増加したばかりでなく、絶えないリストラの中で40代で退職に追い込まれて自営業者に転じる正社員も珍しくなくなった。所得や雇用環境が悪化する中、内需では成長が望めず、外需依存の体質が強まった。そして【1】財閥グループによるグローバル展開、【2】輸出主導型の経済成長、【3】FTA(自由貿易協定)の締結や法人税減税などの政府支援、を軸とした「韓国型成長モデル」が形成された。
2000年代以降、サムスンに代表される財閥グループのグローバル展開を後押しすることで、経済全体を引っ張っていこうとしたわけであるが、この間に財閥グループへの経済力集中が進んだ。
その結果、サムスンの輸出額は国全体の2割に上り、4大財閥(サムスン、現代自動車、LG、SK)の総売上高はGDPの半分を占めるまでになった。
しかし、サムスンなどの躍進が世界でもて囃されている間も、財閥グループと縁のない大多数の国民の所得・雇用環境は改善されなかった。彼らにしてみれば、韓国企業がいくら成長しても「それはどこの国の話?」と言いたくなるほど別世界だったのだ。
多くの国民にとって財閥企業は「できれば自分の子供を就職させたい」という憧れの対象である一方、格差を拡大させた元凶として妬みや憎しみの対象になってきた。そして、その構造が一変。輸出に大きく依存した成長モデルが世界経済(特に中国)の景気減速によって崩れた。構造的な脆弱性が露呈し、財閥企業さえも苦境に喘ぐこととなった。
韓国経済を牽引してきた現代自動車の1~3月期の営業利益は前年同期比10.7%減に落ち込み、傘下の起亜自動車に至っては同35.1%減と業績が急激に悪化した。これは米国での販売が伸び悩んだことに加え、やはりウォン高の影響が大きい。現代自動車はBRICsを中心に現地生産しているが、日本企業と比較してグローバル化が遅れて国内生産比率が高い。米国で販売される半数以上の車は韓国から輸出されているため、為替変動の影響を受けやすい体質だった。
また、鉄鋼最大手のポスコは、中国の過剰生産の影響による鉄鋼価格の下落に直面している上に、造船や機械など顧客企業の不振が予想されるため、さらに厳しい状況に置かれている。
比較的業績が安定しているように見えるのがサムスン電子だ。稼ぎ頭のスマートフォンのベトナムでの生産比率を高めることにより為替変動の影響を受けにくくなっており、1~3月期決算も前年同期比で増収増益を確保。ただし、これも前四半期(2012年10~12月)と比べると若干の減益だった。
※SAPIO2013年7月号