北朝鮮で経済破綻の可能性が高まっている。国民の多くが自国通貨ウォンの価値を信用せず、物品の売買に中国の人民元や米ドルを使っているというのだ。その流通量は20億ドルで、北朝鮮の経済規模である215億ドルの10分の1に相当している。北朝鮮当局は外貨の無断取り扱いは違法として摘発に躍起だが、逆に北朝鮮全土に広がる勢いを見せている。
ロイター通信によると、中朝国境地帯の中国吉林省延辺朝鮮族自治州では、中国側に住む親類を北朝鮮の人々が訪ねきているが、その目的は親族訪問ばかりでなく、北朝鮮国内で不足している日常雑貨や食糧を手に入れることも目的となっている。さらに、最も重要なのは中国の人民元や米ドルを入手することだという。
北朝鮮国内では2009年の通貨改革による北朝鮮ウォン(以下、ウォン)の切り下げで、ウォンの価値が米ドルと対比して、99%も下落し、強烈なインフレに見舞われているためだ。さらに、中国側の市場で決済の通貨として使われているのも人民元や米ドルだけに、北朝鮮の市民はもはやウォンには通貨価値はないと考えている。
最近では首都・平壌の商店でも値段の表示にウォンは使われず、米ドルや人民元、ユーロの値札がかかっていることが往々にしてあるという。ある欧州の平壌駐在の外交官はロイター通信に「日常品や食料を買うのに、外貨は欠かせなくなっている」と証言するほどだ。
自国通貨のウォンの信頼性がなくなることは、ただでさえ悪化している北朝鮮経済をさらに悪化させ崩壊させることにつながりかねないだけに、北朝鮮当局や取り締まりを強化している。
パリに拠点を置く国際人権団体によると、北朝鮮政府は2012年9月、外貨の流通を犯罪とし死刑を適用できるように法改正した。このため、市民は外貨の取り扱いに神経質になっているようだ。
平壌で生活した経験があり、北朝鮮の商取引に関わっている中国人ビジネスマンは、「住宅の床下に外貨を隠したり、森の中に埋めたりした人の話を聞いたことがある。また誰も政府を信じていないため、銀行に預ける者はいない」と明らかにした。
ちなみに、北朝鮮における現在の公定レートは1ドル=130ウォンだが、闇市場における交換レートは1ドル=8500ウォンまで大幅に下落している。