市場を賑わせているアベノミクス相場。これまで株や投資信託に見向きもしなかった若者までが、なけなしの預貯金を増やそうと投資に前のめりになっている。
そんな初心者の個人投資家を囲い込む千載一遇のチャンスとばかりに、銀行や証券会社のPRに使われているのが、来年1月から始まる少額投資非課税制度の「NISA(ニーサ)」だ。メガバンクの窓口で商品概要を聞くと、こんな説明を受ける。
「専用口座を開設していただきますと、そこで購入した投資信託などの金融商品は、得た利益に一切税金がかかりません。年100万円の投資額を上限に、非課税期間は5年間、つまり500万円まで適用されます。まとまった投資資金がなくても大丈夫です。毎月の収入の中から投資信託を使ってコツコツと積立投資ができます」
NISAの対象商品は、販売する金融機関によって上場株式、ETF(上場投資信託)、REIT(不動産投資信託)、公募株式投資信託など幅広い。銀行のNISA口座では直接株は買えないが、メガバンクは傘下の証券会社を紹介できるため、グループの総力を挙げて顧客の勧誘に躍起になっている。
口座開設時の“特典”で争奪戦を一歩リードしようとする金融機関も増えてきた。例えば、大和証券や野村証券は現金2000円をプレゼント、ゆうちょ銀行や横浜銀行などで事前申し込みをすれば、オリジナルQUOカード500円分がもらえるといった具合だ。
こうしたサービス合戦は、来年1月が近付くにつれ、さらに激しさを増していくものと見られている。「家族や友人を紹介するとさらに現金をキャッシュバックしたり、口座開設に必要な住民票の代行取得を考えたりする金融機関もある」(金融ジャーナリスト)という。
それならば、わざわざ半年近くも先の制度スタートに今から申し込む必要もないだろう。東京FPコンサルティング代表の紀平正幸氏も「急いで口座を作る必要はない」というが、その理由はサービス面だけではない。
「NISAは5年という長期投資のため、リスクが低い積立型の投資信託なら安全と話す専門家もいますが、投資商品に価格変動リスクはつきもの。非課税で優遇されている以上に資産が目減りすることだって十分にあり得ます。もちろん、制度は同じでも金融機関によって取り扱う商品も違いますし、4年間は金融機関を変えることはできません。そうした仕組みをよく理解しないまま、口座開設時のサービスだけに踊らされてはいけません」
さらに、紀平氏は投資のタイミングを見計らうことが重要と説く。
「いまのアベノミクス相場は乱高下していて不安定な状況。この先も曇りや雨が降っているような状態でスタートするよりは、もう少し日本も含めて世界経済が安定して投資環境がよいタイミングから始めても遅くはありませんよ」
政府はNISAを使った投資残高を2020年までに25兆円にすることを目指している。そのため、10年間の時限措置を敷いている。しかし、紀平氏の言う通り、非課税のメリットにばかり目が向いて投資環境を見誤れば、それこそ元も子もなくなる。