中国の食をめぐっては、まさに信じられない事象が次々に表出する。中国の情勢に詳しいジャーナリスト・富坂聰氏がレポートする。
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中国を発信源とした食品偽装・毒食品問題は依然衰えを見せていない。
先月、香港とマカオを訪れたが、そのときに目立ったのは「水客」と呼ばれる違法な運び屋たちの存在だった。
水客は香港ならば深圳へ、マカオならば珠海へと品物を運ぶ役割をしている。いずれも背に負うのは密輸品である。彼らは中国との間を自由に行き来する身分があるため、それを利用として手荷物として密輸を請け負うのである。一度に大量の荷を背負って行進するため、その姿から「蟻の行列」と揶揄されることもある。
最近まで、彼らが最も多く運んだのは乳幼児の粉ミルクであった。毒入り粉ミルク騒動が収まっても国産品に対する信用が回復しないなか、高くても香港からの粉ミルクを求めるニーズが減ることはなく、直近の四半期だけでも24万トンもの粉ミルクが大陸に持ち込まれたとも言われている。
逆にこの現実は香港の人々には大きな負担となった。大陸向けの業者が高値で買い取るのを当てにした香港の業者が、地元の人々売り渋るという現象も生んだからだ。そのため粉ミルクの持ち出しは一人2缶までとの制限が付けられた。そのため規制をかいくぐる意味で水客が繁盛したというわけだ。
だが、5月に入り水客の背負う品物に大きな変化が現れた。粉ミルクから米が中心になった。
理由は中国国内で流通するコメに、古くなった大量の備蓄米が混入されていたという問題が発覚したからだ。備蓄米は廃棄処分するもので、当然のことながら防かび剤など強い薬が混じっていた。
中国では「さもありなん」といったところだが、この騒動がもう一つ別の問題を人々に思い起こさせることになったという。
それが少し前に話題となった食肉偽装の問題である。しゃぶしゃぶ用の羊肉が実はネズミやキツネであったという例の報道だ。
衝撃的なニュースだったが、現実にネズミを加工する手間やそれほど大量のネズミがいるのかなど疑問も残った。それについて広東省のメディア関係者はこう説明する。
「実は国家が管理するコメの備蓄倉庫は大のネズミの繁殖基地になっているのです。そこでは丸々と太った子豚のようなネズミが多く、大量に処分してもすぐに増えてしまって困っていた。そこに目を付けた食肉加工業者が入り込んだという図式のようです。処分する方も死骸の捨て場に困っていたので双方がウインウインとなったのです」
あまり考えたくはないが、やはり本当のことのようだ。