「理屈より行動」をモットーに、創業者・鳥井信治郎氏が遺した“やってみなはれ”のDNAを受け継ぐサントリーホールディングス。
そんな自由闊達な企業風土を守るため、敢えて非上場を貫いてきた同社が、7月に大きな転換期を迎える。
同グループの連結売上高の52%を稼ぎ出す中核子会社、サントリー食品インターナショナルが7月3日に東証1部に上場するからだ。缶コーヒー「ボス」や炭酸飲料「ペプシ」、茶飲料「伊右衛門」など、数々の主力ブランドを築き上げてきた国内2位の清涼飲料メーカーである。
上場すれば株主や投資家からの横やりは覚悟しなければならない。ときにチャレンジ精神も失われかねない戦略を取る狙いは何なのか。飲料総研取締役の宮下和浩氏が解説する。
「サントリーグループとしては、消費低迷が続くアルコール事業の急激な拡大を目指すよりも、まだ成長の余地がある飲料事業で着実にシェアを伸ばし、国内のみならずグローバル企業として売り上げを拡大させていきたいのです。2009年にフランス飲料大手のオランジーナ・シュウェップス・グループや、ニュージーランドのフルコアグループを買収したのもその表れです」
5000億円とも目される上場による調達資金を、海外企業も含めた大型M&A(合併・買収)に使うシナリオは、サントリー首脳陣も公言してはばからない。特に3500億円と巨費を投じたオランジーナ社の買収は、M&Aの成功事例となり見返りも大きかった。
2012年3月に逆輸入した果汁入り炭酸飲料の『オランジーナ』は、日本でまったく知名度がなかったにもかかわらず、年末までに900万ケースの出荷量を記録。日本コカ・コーラのメガブランド『ファンタ オレンジ』が600万ケースだったことと比べると、いかに売れたかが分かる。(数値は飲料総研調べ)
今後、サントリー食品は海外事業の拡大で、2020年までに売上高倍増の2兆円を目指している。そこで気になるのは、“第二のオランジーナ”に匹敵する買収先だ。業界関係者は、「東南アジアや中近東、アフリカ、中南米あたりの企業を狙っている。欧州企業の名も挙がっている」と話すが、前出の宮下氏は「国内企業にも花嫁候補はいる」と指摘する。
「国内の飲料メーカーはプレイヤーが多すぎるというのが外野の声。アサヒがカルピスを買収して3位に浮上したように、どこが次なる再編の主役になってもおかしくありません。特にサントリーは、傘下に置くペプシ系ボトラーと積年のライバルであるトップのコカ・コーラ社を抜くという旗を降ろしていません。業界首位を狙うには国内勢とのM&Aも考えているはずです」(宮下氏)
現在、日本コカ・コーラのパッケージ飲料シェアは28.4%なのに対し、サントリー食品は19.8%。かつてコカ社が3割を超えていたことを考えれば、サントリーがいかに肉薄しているかがうかがえる。
「自動販売機部門での資本提携をしたり、商品の相互補完、販売を他社に委ねるなど、業界内は徐々に再編が進んでいくと思います。そこにサントリーが絡むようなことがあれば、勢力図は一変するでしょう」(宮下氏)
上場するサントリー食品を率いるのは、次代のグループリーダーとの呼び声高い鳥井信宏氏。創業者のひ孫だ。同族企業の“結束”を固めながら、いかに異文化と連携できるか。その舵取りが注目される。